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第74話。ナギの姉ナユのタマゴに起こったこととは。おばばはそれを自らの命であがなおうとするが…?

第74話です。

「お、おばば様!何をなさるんですか!顔を上げてください!」

「申し訳…大変、大変、申し訳ございません、聖銀様…!」

 突然おばば様は大声で叫び、水晶の床にひれ伏したまますすり泣き始めた。その声がどんどん大きくなる。

 ええっなに!?なんで!?

 私はあわてておばば様に問うた。

「ど、どうなさったのですか…!?」

 おばば様から返ってきた答えは、意外なものだった。

「ナユ様のタマゴはもともともう一つあったのです…!しかし、ナユ様が亡くなられた後、我らがもっと開放的であった頃に、我らが慢心ゆえに一番小さい一つを…只人に盗み出されてしまいました…!」

「えっ」

「申し訳…ございません…ッ!」

 おばば様の慟哭と号泣は止まらない。私は告げられた内容に仰天し、その場から動くこともできずにただそれを聞いていた。

「あわてて取り戻しに行ったものの、邪気が神竜のタマゴの餌だと勘違いしていた只人たちの手によって、ナユ様のタマゴは邪気溜まりの中に置かれており、黒く変色し…中にいた子は苦しみながら出てこようとして、し…っ死んでしまいました…っ」

 ええっ!?

 そこまで叫んだおばば様は息を吸い込み、床の水晶に更に額を擦り付けた。

「本当に…本当に…申し訳ございません…もうしわけ、ござい…ません…!」

 わああ…と泣き伏すおばば様を前にして、私とナギは驚きのあまり、かける言葉も見つからぬまましばらくの時が過ぎた。

 そんな中、先に声を上げたのはナギだった。

『…こんなに長い時間がたっているのだ。そのような悲しいことも起きるのだな。そなたらにとっても辛い出来事であったが…』

 ナギの声は沈んでいたが、優しくもあった。

『仕方のないことであろう』

 その言葉をおばば様に伝えると、彼女はしかし、と顔を上げぬまま言いつのった。

「しかしナギ様、大切な聖銀様のタマゴのひとつは失われてしまいました。その後はこの場所へ…高い山脈の中で、寒くて翼あるものしか来れないような場所に住居を移して出入りを厳しくチェックし、領地を閉鎖して、残りのタマゴを守ってまいりました」

 一族を辺境の地に閉じ込めてまで。

 そこまでして、残ったナユのタマゴを守ってきてくれたんだ。

 実はこの地に住居を構えた理由はもうひとつあったのだが伏せられており、私はあとで知ることとなった。

 もしかして、このタマゴたちが今まで残ることも、ナユの予言にあったんだろうか。

 そう思って聞いてみると、おばば様はひれ伏したままはい、と涙声で答えてくれた。

「ナユ様はおっしゃいました。自分が生きている間は子供たちの顔を見ることはできないと。それを見ることができるのはナギなのだと」

『なんと…!』

「ナユ様がご存命の間、本当にタマゴは孵ることはなかったので、我らはお言葉が正しかったと知ったのです。しかし数は言い残されておりませんでしたので、まさか盗み出されるとは思っておりませんでした」

 私の中で、ナギが穏やかに語りかける。

『そなたたちは住む場所まで変えて、残りのタマゴを守ってくれたではないか』

 それを伝えると、おばば様は首を振った。

「我らの落ち度で盗まれてしまい、お救いすることもできず…本当にどのようにお詫びしたらよいやら…先祖の失態は族長たる私の命で」

 だからなんで皆、命で詫びを入れたがるの。

 そんなことされたって何にもならないし、誰も得をしないし、何より私が嬉しくない。

 ナギも溜め息をついて、ゆらゆらと首を揺らした。

『誰も死ぬことは許さん。生きて役目を果たすことで償うがいい』

 それを伝えてなお平たくなっているおばば様に、私も祈るような気持ちで言った。

「おばば様、それではこの先私たちを助けることで償ってください。これから困難な時代がやってくるでしょうから、あなた方の協力はとても力になります。ほころびの情報もあなた方の力も必要です。どうか私たちに力を貸してください。それで、償いとしてください。その方が、命で償われるよりずっと私たちのためになります。どうか、お願いします」

 おばば様は両手をぎゅっと握り締め、わなわなと震わせた。

「おお、なんと慈悲深い…聖銀様…」

 もしかしてもうひと押しだろうか。

 私は必死に言い募った。

「本当に、そっちのほうが助かるんです。ですからおばば様。お願いします」

 お願い。

 命で償うなんて言わないで。

 もう誰も、失いたくないの。(続く)

第74話までお読みいただき、ありがとうございます。

おばば様は聞き入れてくれるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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