第73話。美しい銀水晶の部屋に連れていかれた鞠絵。そこにあったものは、なんと…!?
第73話です。
「こんなお可愛らしい方が…そうですか…」
「ではおばば様、この先にご案内されるのですね?」
この先?まだ先があるというの?
おばば様は頷いて、私を振り返った。
少し下がって私の背に手を当て、そっとやさしく押すようにする。その手に導かれて、私は空洞のさらに先に見える扉へと近づいた。
「わあ…」
それは水晶でできた壁と扉だった。今までと違っているのは、壁一面を覆う水晶が黒ではなく白銀色をしていること。
「ここの開錠には少しばかり魔力が要りまする。ここで待っていてくだされ」
おばば様の手が私の背から離れていって、水晶の扉に当てられた。小さな声で詠唱するおばば様の手から、水晶へと光が広がっていって、手を中心にして放射状に、水晶の扉が光り輝いた。
不思議なことに、同じ素材でできているように見えるのに、光っているのは四角い扉だけだった。壁の部分は水晶に散りばめられた細かい無数の白銀色の光が強く、弱く輝いていて、暗い空間に白い光を放っているが、おばば様の魔力を受けた扉の光は白くまぶしいほどだった。
「開錠」
そしてその一言と共に、光がすうっと一点に集まる。
それは鍵穴の形となって、扉に現れた。
おばば様が腰にぶら下げた鍵束の中から一つをその鍵穴にさすと、重々しいかと思われた水晶の扉がまるで木の扉のように軽く開いた。
「さあ、こちらへいらしてくださいマ・リエ様。お見せしたいものはこの中にございます」
おばば様の声は硬い。私はごくり、と喉を鳴らし、緊張しながら水晶の扉をくぐった。
その中は…美しい銀水晶の部屋だった。
「…すごい…」
なんて、綺麗。
六角錐をした白銀色の水晶が壁や床から無数に飛び出していて、自らきらきらとした光を放っている。ほかに何の光源もなくても、その光だけで十分部屋の中が見えた。先ほどの黒い水晶群もほのかな灯りを放っていたが、この部屋はもう少しだけ明るい。
けれど灯りは柔らかくて薄暗く、決してまぶしくはなかった。
まるで、何かの眠りを守っているかのように。
「ここは…何かを封印でもしている部屋なのですか?」
すると部屋の中まで進んだおばば様は入口近くの私を振り返り、ゆっくりと頷いた。
「そうです、マ・リエ様。こちらを…ご覧くだされ」
「え?…あっ!」
おばば様が示したのは床の上だった。大きな水晶に阻まれて見えず、数歩進んで覗き込んだ私の目に飛び込んできたものは、きらきらと光る銀水晶の中、等間隔に並べられたいくつもの大きなタマゴだった。
「これは…」
タマゴ。
大きさからして、竜のタマゴに間違いない。
形は炎竜のそれに似ていた。
大きさは少しばかり大きく、真っ赤だった炎竜のタマゴと違って、青銀色の殻が水晶の光を反射して輝いている。
青銀色。
私の髪の色と同じ…。
「まさか」
『まさか』
私とナギは、同時に声を上げていた。
まさか、青銀色のこのタマゴの親は。
「はい。この四つのタマゴは、聖銀竜様の…ナユ様のタマゴにございます」
「ええっ…!」
『…!!』
私の中でやはりナギが叫び声をあげた。でもそれは驚きだけではなく、確かに喜びも含まれた叫びだった。
『タマゴだ!聖銀竜のタマゴというだけでもうれしいのに、なんとこれは確かに姉上のタマゴ!姉上の魔力を感じる!マ・リエ、まだ生まれてもいないが我には甥や姪がいたのだ!なんと…こんな…こんな嬉しいことはない…!』
ま、待って、落ち着いてナギ。
ナユが生きていたのはもう一万年近くも昔のことよ。そんな昔からタマゴの状態でずっといるなんておかしくない?生きているだけで不思議なくらいなのよ?
『し、しかし、確かに姉上の魔力を感じるのだ』
その謎をおばば様に聞こうと顔を上げると、彼女はタマゴと私の前に膝まづいて土下座をするところだった。この世界でも土下座ってあるんだ…ってそうじゃなくて!(続く)
第73話までお読みいただき、ありがとうございます。
なんと、聖銀竜のタマゴが残っていたのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




