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第72話。大切なことを黒鋼竜たちに伝えた鞠絵。それに納得したおばばが鞠絵を連れていこうとする先とは…。

第72話です。

「私の中にいるナギは、事故によってとても傷ついています。私の中で、ほぼ眠って傷を癒している状態です。その力をふるうことはまだ難しいかと…思います」

 おばば様がなんと、と目を見張る。

「そうだったのですね」

「傷ついたナギは、元の世界に戻るために私と融合することが必要だったのです。私が歌うたびに彼も癒されていってはいるようなのですが、世界の封印を担うのはまだ無理かと思います」

「………」

 大きな部屋の中がしん…と静まり返り、私は緊張で右手を握った左手にさらに力をこめた。

 そうだよね、期待が大きかったよね。

 ずっとずっと、待っていたんだものね。

 私たちが現れたことで、これで世界は救われる、もう何も心配はないとさえ思ったでしょうに。

 彼らの落胆を考えると、私は申し訳なさでいたたまれなくなった。

「でもナギは、回復するまで思ったほどは時間はかからないようなことを言っていました。私の歌があれば、今の状態でもなんとかなると。ですから皆さん、もう少し…もう少しだけ、待ってはいただけないでしょうか」

 黒鋼たちは互いに顔を見合わせ、少し話をしていたが、やがて私を振り返って先頭の一人が声を上げた。

「そういうこととは露知らず、我らの期待を押し付けるような、無作法な真似をしてしまい申し訳ございません、聖銀様。もちろん我らはお待ちいたします。ナギ様がその御力を取り戻す、その日まで」

「ありがとうございます。皆さん」

 騒ぎになることもなく、ただ静かにナギの状態を受け入れてくれた黒鋼たち。なんという忠誠心だろうか。

 私は感動して、そして申し訳なくて、彼らに頭を下げた。皆が驚いて顔を上げさせようとしてくれたけど、それでも。

 胸の前で組んだままだった私の手に、おばば様のあたたかな手がそっと重なった。

「マ・リエ様。こうして戻ってきてくださったと知れたことは、我らにとってとても力になります。なに、すでに一万年近く待ったのです。あと少しくらい、お待ちいたしますとも」

「おばば様」

 ようやく顔を上げると、ほっとしたような人々の顔と、優しく微笑むおばば様の顔とがあった。

「マ・リエ様、お連れの方々は我らが歓待いたします。このまま、おばばについてきてはいただけませぬか」

 まだ連れていきたいところがあるのだと言われて、私は頷いた。

 何よりおばば様の表情がとても緊迫していて、断れる雰囲気ではなかったのだ。

 どうしたんだろう?私を、これからどこに連れていこうというのだろう?

 さっき、私に謝らなければならないことがあると言っていたけれど、それに関係しているのだろうか。

「皆の者、各自戻ってよいぞ。私はこれから聖銀様を、例の場所へお連れする」

「…!」

 大部屋の中の全員が、一様に表情を硬くした。あの小さな黒鋼でさえも。部屋に走る緊張感に、私はぎゅっと身が引き締まる感じがした。

 本当に、一体どこへ行こうというのだろう。

「さあマ・リエ様、こちらでございます」

 そういえば、おばば様は私と会った時は腰が曲がっていたけれど、今はしゃんと伸びている。そのため私より少し背が高く、灰色がかった黒い瞳が何とも言えない表情で私を見下ろしていた。

 おばば様について部屋を出ると、誰も私たちについてくる者はいなかった。誰かはついてくると思っていた私は拍子抜けしたけれど、おばば様と二人で廊下を歩く。

 廊下の先には鍵のかかった重厚な扉があった。物質的な鍵だけでなく、封印が施されているのがわかる。その厳重さから、おばば様が私を案内したいのがこの先なのだと、すぐにわかった。

「開錠」

 おばば様が扉に右手をかざしてそう唱えると、扉の鍵穴が光出す。おばば様が長いスカートの上に羽織っている上着をめくると、腰にはいくつもの鍵がぶら下げられていた。

 光る鍵穴に、そのうちの一つの鍵を差し込めば、扉はスムーズに開いた。

 カチャリ。

 さあ、この先が…と思って覗き込むと、そこは部屋ではなく下へと続く階段になっていた。あれ?このパターン、どこかで見たような。

 炎竜の封印の洞窟を何となく思い出しながら、置かれていたランタンに魔力で灯りを灯したおばば様に連れられて、下へと下りていく。途中にはいくつもの扉があって、同じように開錠しては閉めを繰り返して通りすぎていった。

 一体いくつの扉を抜けただろうか。最後の扉を抜けると、そこは広い地下空洞となっていた。清浄な空気がふうわりと体を包み、どこからか水の滴る音も聞こえてくる。

 天井や壁、床に至るまで黒い水晶のような突起物が生えていて、薄暗くはあるがランタンの光が必要ないほどに光を放っていた。

 よく見ると、黒い水晶の中に細かい金色の粒が無数にあって、それがかすかな光を放つことによってやわらかい光となっているのだ。

 地下空洞ならひんやりとしていそうなものだが、ここは適度にあたたかい。床の近くは地熱のせいなのか、更にあたたかいようだった。水晶に囲まれた空間とのイメージギャップに、とても不思議な感じがする。

 薄暗がりの中、数人の女性たちが集まってきて、私たちに頭を下げた。私をまじまじと見て、まあ…と口元に手を当てたところを見るに、彼女たちはやはりお嫁さんにきた真竜なのだろう。私のことがわかったみたい。(続く)

第72話までお読みいただき、ありがとうございます。

一体おばば様は鞠絵さんをどこに連れていこうというのでしょう。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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