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第71話。かつて聖銀竜に仕えていた黒鋼竜の末裔25頭にとうとう会う鞠絵。しかし彼らに大切な話をしていないことに気づき…。

第71話です。

 おばば様に連れて行かれたのはすぐ隣の部屋だった。扉を開けると、そこは大きな空間となっていた。

 そしてその中には二十五人の、手に黒いウロコがある男性と、そのお嫁さんなのだろう、十三人の黒いウロコがない女性が並んでいた。

 私を見るなり全員一斉に膝をつき、頭を垂れる。手の甲に黒いウロコがある人たちは一様に、さっきおばば様がやったように、私にウロコがみえるよう胸の前に当てていた。

 ああ…この二十五人が。

 一万年の間生命をつなぎ生き抜いてきた、この世界で最後の黒鋼竜たちなんだ。

 私は深い感動を胸に、彼らを見渡した。年齢は様々だが、ウロコがある人々は皆体格がよくて大きい。真竜の女性たちが小さく見えるほどに。

 おばば様が私の後ろから彼らの前に回ってきて、右手を胸の前に当てた。

「もはや女はこのおばばただ一人、後は男しかおりませぬ」

 えっ…そうだったんだ。

 確かに、黒いウロコがあるのはおばば様以外は全員男性に見えた。

 どうして最初に気づかなかったのだろう。

 おばば様は膝をつき、私の目をじっと見上げて話し始めた。

「マ・リエ様の御力は先程見せていただきました。皆、顔を上げて私を見よ。体の痛みも辛さももはやなく、こうして一人で動くことができる。それはマ・リエ様の歌の御力のおかげなのだ。お前たちにも聞こえていたであろう」

「はい」

「聞こえていました」

「あの歌が…おお、おばば様がお一人で膝まづかれておられる」

「聖銀竜様と混じりものとなられた御方は、歌に御力を持っておられるのだな」

「なんと…」

 ほう…と感嘆の声が上がる。

 顔を上げた黒鋼竜たちは、皆精悍な顔つきをした、いかにも戦士といった感じだったのだが、見渡した私はその時初めて気づいた。

 皆の一番後ろに隠れるようにして一人だけ、小さな黒鋼がいることに。

 まだ子供なのかな?そういえば、黒鋼の小さな子供がいないものね。

 あの子は小さいし女の子に見えるけど…でも男しかいないって言ってたから、きっと男の子なんだな。厳粛な空気の中で何だけど、可愛い。

 するとおばば様が、祈りをこめるように、願いをこめるように

、まるで歌うようにこう言った。

「この御方の御名前はマ・リエ・ナギ様」

「ナギ様ですと!?」

「ナギ様」

「なんと」

「ナユ様の弟君の…ナギ様が、伝承の通りに戻っていらした…!」

 口々にざわめく黒鋼たちの声をぬうようにして、おばば様が頷き高らかに声を上げる。

「そうじゃ。ナギ様が戻っていらした。このマ・リエ様と融合なされてな」

 おお…と歓声が上がって、黒鋼竜たちは拳を握った。

「それは…なんと素晴らしい。この世界に希望が持てる」

「本当に、聖銀様が戻っていらした」

「きっとこれからは世界のほころびを封印し直し、この世界を守ってくださることだろう…!」

 あっちょっと、ちょっと待ってください。

 そういえば私、大事なことをおばば様にまだ言っていなかった。

「皆さん」

 しかし私が一言発すると、黒鋼たちはおおっと野太い歓声を上げたので、私は驚き戸惑って一歩下がった。

 ああ、こんな時にルイが背中にいてくれたなら。

 仲間たちはこの部屋へはついて来なかったので、私は一人ぼっちだった。

 どうしよう、広い部屋にほぼ大きな男性ばかりの中で怖い。

「皆の者、静かにせよ。マ・リエ様が何かを伝えようとなさっているではないか。邪魔をするな」

 しかしおばば様がそう皆を制してくれたので、部屋の中は静かになった。

 私はごっくりと唾を飲み込み、下がった足を戻す。それでもまだ、一人を除いて全員大柄な男性たちの真剣な眼差しを一身に受けて怖かったので、右手を左手で包んで胸の前でぎゅっと握った。

「大切なお話があります」

 思っていたより大きな声が出て、少し安堵した。そのまま息を吸い込んで、広い部屋の中に響くように声を張り上げた。

 このことは、黒鋼の皆に知っていてもらわなくちゃならないことだから。(続く)

第71話までお読みいただき、ありがとうございます。

鞠絵さんがしなければならない大切な話とは。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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