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第68話。黒鋼竜の族長エリアスおばばと話す鞠絵。

第68話です。

 私が首を傾げると、おばば様は真剣な顔で頷いた。

「名乗るのが遅れまして申し訳ございませぬ。私はエリアス・カルダットと申します。ナユ様の先読みにより、聖銀様がお戻りになられる時の当主はエリアスという名だと告げられましたので、私たち当主は代々エリアスという名でございました」

「カルダット様…そうだったのですね」

「どうか、おばばとお呼びくだされ。このおばばの代、しかもこの歳になって、願いが叶うとは思うてもみませんでしたが」

 おばば様はそう笑って、私の髪をまた撫でた。黒鋼竜は皆大柄と聞いていたが、おばば様は私より少し背が高いようだった。しかし足腰が悪いのか、少し前屈みになっているせいで、並んで立つと私より少し目線が低い。

 年齢がくっきりと刻まれている顔は整っていて、若い頃はさぞかし男性が放っておかなかっただろうなと思われた。

 いや、今でも十分魅力的だ。

 象牙色の肌は少し顔色が悪く、年齢相応のしわも刻まれていたが、なめらかな手触りをしていた。年をとってやせているとはいえ、がっちりとした骨格はそのままで、黒鋼竜らしい頼もしさを感じさせた。

 黒い瞳は少し灰色がかってきていて、優しくまたたいて私を見つめている。微笑むと目尻のしわが深くなり、よりいっそう穏やかさを感じさせた。

 久しぶりに会えた、優しいおばあちゃん。

 なんだかそんな感じがして、私はようやく涙の止まった瞳を細めて微笑んだ。

 その時おばば様の後ろから、この地へ嫁入りしたのだろう炎竜の女性が小走りでやってきて、彼女を背中から支えた。

「大丈夫ですよ、メイリー。一人で立っていられるわ」

「いけませんおばば様、どうかお座りください」

 そんなやり取りに不安になって、私はおばば様の手を握った。

「どこかお具合が悪いのですか」

 するとおばば様は少し恥ずかしそうに、眉をハの字にして笑った。

「この歳になると、あちこちが言うことを聞かなくなりましてな。しかし大丈夫です。マ・リエ・ナギ様がいらしてくださって、元気になりましたよ」

 とてもそうは見えない。それなのに、私が大泣きした時には抱き締めていてくれていたのね。

 見れば、一人で立っているのも辛そうではないか。

 おばば様に、元気をあげたい。

 彼女が私を支えて慰めてくれたように。

 今度は私が彼女の体調をよくしてあげたい。

 今の私には、それができるのだと思うと、とても誇らしい気持ちになったし、純粋に嬉しかった。

 辛そうにしている人を治してあげられるということは、私にとって自信につながった。この世界にやってきて、聖銀竜との混じりものだというたった一人の存在となって、不安でたまらなかった私に与えられた力。

 他人のために役立てられる力。

 それはなんと、素晴らしいことか。

 だから、今回もきっとできる。優しい黒鋼竜のおばあさんのために。

 カルダット様…いやおばば様は、この歳になるまで黒鋼竜を率い束ねてきた御方だ。優しいだけではないのはわかっている。

 でも、今の私にとっては辛い時になぐさめてくれた優しいおばあさん竜だった。

「おばば様、私からもお願いします。どうかお座りください」 

「しかし、マ・リエ様」

「私、歌が歌えるんです。少しはおばば様のためになると思います」

 すると私の背後にいたサラとタニアが、口々にそうです、と声を上げてくれた。

「姫様の歌を聞くと、皆元気になるんですよ!」

「そうです。マ・リエ、歌ってあげて」

「効果の程は我々が保証いたします」

 リヴェレッタ様にまで頭を下げられて、おばば様は困ったように息を吐いた。

「わかりました。それでは失礼いたしますね」

 そうして炎竜の女性…おばば様付きなのか、それとも義理の娘なのかわからないが、メイリーと呼ばれた女性に導かれて、元々座っていた椅子に沈みこんだ。

 はあ、と深いため息がおばば様の口から漏れて、やはり立っているのは辛かったのだとわかった。

「マ・リエ様は歌を、歌われるのですか」

「はい。元々歌は好きだったのですけど、ナギと融合したことで歌に力が宿るようになったのです」

「なんと。そんなことは、聞いたこともありませぬ」

 おばば様は目を見張り、椅子のひじ掛けを掴んでゆっくりと身を起こし、私をまじまじと見た。

「聖銀様と融合されて、歌に力が宿るとは。…それはきっと、もともとあなた様の歌に力があったのでしょう」

「えっ?」

 そんなこと、考えたこともなかった。

 私の歌はこちらの世界へやってきてから、私に与えられたものなのだとばかり、思っていた。(続く)

第68話までお読みいただき、ありがとうございます。

鞠絵さんの歌の効果のほどは。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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