第61話。黒鋼竜に使いに出されていたサイモンが幾度も断られて戻ってきて、これは直に行くしかない、と皆が言い出す。
第61話です。
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散々温泉を楽しんで出てきた私とサラとタニアの三人は、もう足元がフラフラだった。それでも笑い合いながらタオルで髪の拭きっこをして、サラが風魔法で乾かしてくれたりして、部屋に用意されていた夕ご飯を食べて、ベッドではなく床に直接敷かれた布団の上で、寝落ちするまで話をして過ごした。
翌日はリヴェレッタ様がルイとダグも含めた私たち五人を街に連れ出して案内してくれ、昼はお店で食べたりおみやげを少し買ったりした。この先どこへ向かうかわからなかったから、持ち歩きに困らないよう小さなアクセサリーを買っただけだったけれど。
その翌日はオフにして、五人でゆっくりしようとしたら、ダグもルイも炎竜の戦士に戦い方を習うとかでいなかったものだから、結局女性陣三人で部屋の中でお茶をしたり話をしたりして、久しぶりに三人だけでのんびりと過ごした。
そして、更にその数日後のことだった。
光竜の領地から黒鋼竜のところへ出したという使いが炎竜の領地にやってきた、とリヴェレッタ様から連絡が入ったのは。
なかなかやってこない、とスーリエ様が心配していたが、どうやら何度も追い返されてはまた訪れて、また断られて…を繰り返していたらしい。
「黒鋼竜様は閉鎖的だと聞いていたが、ここまでとは」
聖銀竜と会って欲しい、という使いを断られたスーリエ様は、難しい顔をしてその使いの人と一緒に会議室に入ってきた。会議室にはすでにリヴェレッタ様とダラス様、私とユニコーンたちも揃っていて、皆で向かい合って座った。
使いの人はサイモンと名乗り、私に何度も丁寧にお辞儀をして、結果を出せなくて申し訳ございませんと謝った。
「そんな、あなたのせいではありませんから」
「何度も申し出たのですが…」
「サイモン、詳しく話しておくれ」
スーリエ様に促され、サイモンは頷いて話し始めた。
「黒鋼竜様の住む地域は高い峰で、竜でなければなかなか行くことは難しい場所です。外側には街がありまして、竜や翼のある混じりもの、黒鋼竜様の崇拝者たちが住んでいます。大きく頑丈な門扉がありまして、黒鋼のおばば様と呼ばれる指導者の許可がなければ開くことはありません。扉のところに通信用の岩がありまして、決まった時間に岩の色が変わると中と通信できるのです。おばば殿に取り次いでもらえるよう、毎日何度も通って頼んだのですが…その都度取り次ぎ自体を断られてしまいまして…」
サイモンは心底疲れた顔をしてうなだれた。
スーリエ様は、顎に手をあてて難しい顔になる。
「なるほど、それでは仕方がないな。私もおばば殿には姉の嫁入りの際にお会いして以来だが…話のひとつも聞かぬような方ではなかったはず」
「通信に出るのはいつも、声からして若い者のようでして。私は光竜の…まで聞くと必ず、話を遮られて通信を切られてしまうのです。お役にたてず…申し訳ございません」
それじゃあどうしたらいいのかしら。元いた世界で言うと、電話しか通信手段がないのに一方的に切られちゃう、ってところかな。それは困るなあ。
「かつてはもっと開放的だったと聞いているが、今は黒鋼竜様は滅多に外界に出て来ない。七~八千年前に某国を滅ぼして以来な」
あ、それって。以前聞いたことがある。
盗賊たちが言ってた。
本当の話だったんだ…。
「一国を滅ぼしたっていう、あれですか?」
「そうです。タマゴを盗まれて怒り狂った結果…と聞いています」
そうなんだ。それは相手も悪いけど、ひとつの国を滅ぼしてしまうなんて、黒鋼竜はすごい力を持っているのね。
スーリエ様は白金色の眉毛を潜めて腕を組み、しばらく考えこんでいたが、リヴェレッタ様の一言に顔を上げた。
「行くしかねえな」
「は?」
「光殿よ、これはもう直接行くしかねえ。そうだろ?」
あっやっぱり私やダラス様以外にはその口調なんですね?
「しかし炎殿。黒鋼様は竜の中でも最大級の大きさと力を誇る竜。連絡もとらず訪れても、力づくで追い返されては我らにすべはない」
「だから、追い返されなきゃいいんだろ。いいか?真竜どころか、亜竜にすらわかるんだから、神竜にマ・リエ殿が聖銀様だってわからんはずはない。つまり、会わせさえしちまえば問題はないってわけさ」
「な…なるほど…一理あるな…」
リヴェレッタ様が、だろ?とニヤリと笑うと、スーリエ様はうむと頷いて、二人して私を振り返った。
「「ということで、黒鋼様に直接会いに行こうと思います、マ・リエ殿」」
お…お二人の声が見事にハモってる。実はこの二人、すごく仲がいいんじゃない?
「そうだな。オレもそう思う。それが現実的だろう」
後ろからダグの低い声がそう肯定した。
「現実的?」
「黒鋼様の若い連中が用件をちゃんと聞いてくれるまで、どれくらいかかると思う?」
そ、そうね。
「私たちを試しているのかもしれないわ。どれくらい通ってくるのかとか」
サラがそう言うと、ルイが頷く。
「そうかもな。しかしこちらはそんなに待ってはいられない」
「となると。行くしかないですね、姫様の証明のためにも!」
タニアが拳を天に突き上げた。
な、なんか、皆やる気になってるんですけど。ほんとに大丈夫なのかな?ちょっと不安。
でも確かに、皆が言うように直接赴くしか方法はなさそうだ。(続く)
第61話までお読みいただき、ありがとうございます。
果たして黒鋼竜のところへ直接赴くことになるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




