第60話。ダグと炎竜の若い青年たちと天然温泉に入るルイ、鞠絵との関係などを聞かれて大あわて。
第60話です。
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一方その頃、ダグとルイはというと。
炎竜の若者たちに連れられて、男性用の温泉に入っていた。
「あんた、ダグっての?すげえいい体してんなあ」
「どんな鍛え方してんの?」
「オレにも教えてくれよ」
ダグが数人にそう聞かれているのに対して、ルイは別のグループに囲まれていた。
「なあなあ、マ・リエ様とはどんな感じなんだよ」
「ど、どんな…って」
「隠すなって。男同士、裸の付き合いの時は何でもさらけ出すもんだぜ?」
「おっオレは別に、隠してなんかいない」
「じゃああんな美人が背中に乗ってるって、どういう感じなんだよ?こう、触るだろ?手とか脚とか、ほら、尻の感触とかさあ」
「しっ…!」
お湯のせいだけでなく真っ赤になるルイに、若者たちは笑う。
「背中からいい匂いがしてくんだろうなあ。いいなあ。考えるだけでうっとりしちまうよ」
「かっ考えるな!マ・リエを背中に乗せていいのは、オレだけなんだから!」
「でもあっちのダグだって乗せてんだろ?お前だけじゃないじゃん」
「そっそれは…マ・リエがオレが疲れるんじゃないかって、心配してくれるから、時々交代しているだけだ」
炎竜の若者たちは目を丸くし、それから声をたてて笑った。
「そうかそうか、マ・リエ様はお前だけのものなんだな?だったらちゃんと告白して、きっちりマ・リエ様のハートを掴んでおかなくちゃじゃねえか」
ルイは真剣な顔で首を横に振る。
「マ・リエはオレだけのものじゃない。悔しいけど。彼女は皆のために歌っているんだ。だから、オレは彼女のために出来ることは何でもする。例え、オレのこの気持ちが報われないとしても…オレは、後悔なんてしない」
ルイを取り囲んだ若者たちは黙り込み、互いに顔を見合わせた。やがてそのうちの一人が、ルイの白くて鍛えられた肩をぽん、と叩く。
「そうか。お前は本気で、心からマ・リエ様を愛しているんだな。からかったりしてすまなかった」
ルイは赤くなってはいたが、きゅっと唇を引き結んで若者たちを見つめた。その表情に決意を読み取って、若者たちは頷く。
「わかる…わかるぜその気持ち…オレだって炎竜の学園のマドンナに振り向いて欲しくて、でも叶わないから心でずっと想ってるんだ…」
「そうだよなあ、わかるぜ。あのマドンナは可愛いもんなあ…」
「オレなんか、この間告白してフラれたばっかなんだ…」
学園のマドンナ。
ということは、彼らはまだ学生なのだ。
年齢的にはルイより年上だが、竜は成長が遅いから、精神的にも肉体的にもまだ大人ではなく、一人前となったルイから見れば年下ということになる。
どうりで会話がまだ少し幼いというか、女の子の話に夢中になっているわけだ。
「なあルイ、教えてくれよ。マ・リエ様がどんな匂いかとか、せめてお前が背中に感じるマ・リエ様の尻の感触くらいは…!」
「オレたちカノジョいなくて、寂しいんだよ」
「え、え…っ、いや、それはちょっと…」
男性用露天風呂の中で、数人の炎竜の若者たちに詰め寄られ、ルイは助けを求めてダグの姿を探したが、彼は残りの若者たちに体の効率的な鍛え方をレクチャーするのに忙しくて、ルイのことなど見てもいなかった。
「あ、あの…」
「なあ~、教えてくれよマ・リエ様の触り心地をさあ~…」
「くっ鞍がついているから!」
「はあ?鞍?」
「マ・リエを乗せている時には鞍をつけているから、マ・リエが直接乗っているわけじゃないから、感触はわからない!」
「ええ~、それじゃあ手や脚は触るだろ?」
「なんでそんなにしつこいんだ!」
何だかおかしな方向へ向かっていく話題に、ルイはすっかり困り果てながら決して彼らの望む答えをすることはなく、マ・リエについては頑なに口を閉ざし続けた。
そういう会話をするのは、マ・リエを穢してしまうような気がしていやだったからだ。
そしてとうとう、炎竜の青年たちから逃げきれなくなったルイはダグに向かって声をかけた。
「だっダグ!オレにも!オレにも鍛錬の方法を教えてくれ!」
「えっルイ?もちろんいいが…お前とはいつも一緒に鍛錬しているだろう。今更じゃないか?」
ルイの窮状に全く気付かないダグがのんきに答えるのに、ルイは必死の思いで食い下がった。
「そっそれじゃあ…炎竜の人たちに鍛錬をつけてもらうのはどうだ?」
するとダグは大きく頷いてルイの手を取った。
「そうだな!それはいい考えだ!異なる種族と手合わせするのはお互いにとっていい刺激になる。どうだろう皆?」
ダグを取り囲んでいた炎竜たちは頷いて、それなら先輩たちに話を通そうと言ったが、ルイのところにいた若者たちはぶー、と唇を尖らせた。
ルイは密かにやった、うまくいった!と胸中でガッツポーズをする。
「それよりマ・リエ様って、小さくて可愛いじゃん?」
「だからその話をさあ…」
それでもまだ若者たちは食い下がったが、ダグが一言のもとに吹き飛ばしてしまった。「欲求不満なら、鍛錬して吹き飛ばせ!」
「そうだ、鍛錬はいいぞ!」
ルイとダグにそう結託されて、若者たちは明日から一緒に皆で先輩に稽古をつけてもらうことになったのだった。
「そんな話、したいんじゃないのにな…」
「せっかくのチャンスが水の泡じゃん」
炎竜の若者たちはそう言ってしょんぼりしていたとか。(続く)
第60話までお読みいただき、ありがとうございます。
ルイから聞き出せなかったうえに鍛錬まですることになってしまいましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




