第57話。ロマンチックな夜から戻ってきた鞠絵、翌日出会った者たちとは。大はしゃぎで笑い合う。
第57話です。
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部屋まで送ってくれたルイに御礼とおやすみを言って、私はドアを閉じた。心臓の音がうるさい。ルイに乗せてもらうのなんてもう何度もあるのに、今夜はとても特別な気持ちがした。行きは歩きだった距離は短くてあっという間に着いてしまい、ルイの背中から下りるのが名残惜しいくらいだったのだ。
明日の夜は、少し二人きりで遠出をしてもいいかしら。
星空の下、純白のユニコーンに乗って駆けるなんて、前の世界の二十八歳だった私には考えられないくらいロマンチックだ。
「さあ、もう寝なくちゃ」
そうは呟いてみたものの、何だか胸の高鳴りの名残のせいで目が冴えてしまって、ベッドに座ってもなかなか横になる気になれなかった。
「もう、私ったら」
勢いよくベッドから立ち上がって、水を少し飲む。
「ふう」
少し落ち着いたわ。あまり夜更かしをするわけにはいかない、もう寝なくちゃ。
ようやくベッドに横になった私は、寝付けないかと心配したのだが、ルイの誓いを聞いて安心したせいだろうか。
いつの間にかベッドでぐっすり眠っていたのだった。
その翌日。
昨晩ルイと二人で会ったこともあり、急いで出てきたユニコーンの村のことが気になっていた私は、夕方になってリヴェレッタ様に呼びだされた。
そして向かった部屋で、思わぬ人たちと会ったのだ。それは。
「えっサラ、タニア、それにダグ!皆、どうしたの!?」
するとリヴェレッタ様がダラス様に寄りかかりながら微笑んだ。
「昨日、ユニコーンの村に使いを出したのです。マ・リエ殿にはしばらく炎竜の村でゆっくりしていただこうと思いまして…従者の方々をお迎えに行かせていました」
えっそうだったの!?目をぱちくりさせて驚く私に、皆が口々に声をかけてきた。
「姫様!私がいなくて大変だったのではありませんか?」
「マ・リエ、心配したのよ!」
「大丈夫だったか?ケガとか、していないか?」
サラとタニアが駆け寄ってきて、私の顔や頭、首筋から腕までペタペタと触る。二人の顔はとても心配そうで、タニアの虎の尻尾は膨らんでいた。ダグも私を覗き込んでくる。
部屋の中にはルイも呼ばれてきていて、振り返ったダグにポンポンと肩を叩かれていた。
「みんな…」
嬉しい。
たった一日離れていただけだというのに。
潤んできた視界をはっきりさせようと目を擦ると、サラとタニアに止められた。
「だめですよ、姫様」
「目が赤くなっちゃうわよ」
「も…もうなってるわよ。わざわざ来てくれたの?嬉しいけど、大変だったでしょ」
私が涙声でそう言うと、タニアは豊かな胸を更に張るようにして、ふふんと鼻を鳴らしてみせた。
「半日もかかってないんですよ?そんな移動くらい、姫様にお会いするためなら何でもないです」
それを横目で見てサラも笑う。
「そうね。元々私たちは自分で走って移動するから、何かの背に乗せてもらってっていうのは珍しかったから、なかなか楽しかったわ。速かったし。ね、タニア?」
「ええ。だから姫様が気にされる必要はありませんよ」
とうとう涙がぽろりと目から零れ出てしまって、私は笑いながら鼻をすすった。彼らの優しさがとっても嬉しい。ほんとに昨日の今日だっていうのに、三人と会えたことがこんなに胸を熱くさせるなんて。
昨日ずいぶん張り詰めた気持ちが、三人に会えていっぺんに緩んだみたい。ルイがいてくれたから昨日は頑張れたけど、やっぱり皆揃ってがいいものね。
前の世界ではずっと一人で頑張ってきた私だっていうのに、この世界に来てからすっかり寂しん坊になっちゃったんだ。
私の表情を見たタニアが、ぴょこぴょこ、と虎の尻尾を振った。
「姫様。私、虎になりましょうか?モフる?」
たちまち巨大な虎の姿になったタニアが、ごろりと白い腹を見せて寝転がった。わあ、やったあ!
きゃあ、と声を上げてその柔らかい腹にダイブする私を見て、ルイがユニコーンの姿になって擦り寄ってくる。
「マ・リエ、オレの角だってタテガミだって触っていいんだぞ」
「何言ってんの、なまっちろい駄馬は引っ込んでなさい!」
がお、と噛みつかんばかりのタニアをモフり笑いながら、私は抗議した。
「タニア、ルイは駄馬なんかじゃないわ。昨日だって私を支えてくれたんだから」
「えー、そのお役目、このタニアがしたかったですう…モフって、モフって~。ほら、ふかふかの毛皮はあんたにはないでしょ、ルイ!」
虎の姿のままニヤリとタニアがドヤ顔をする。ルイはくう~っと唸って、二つに割れたひづめを踏み鳴らした。
「でもこの角はお前にはないだろ!タテガミだって!ほらマ・リエ、触っていいから!」
「私のお腹のほうが気持ちいいですよね姫様~」
「ふ、ふふ、あははははは」
二人があまりにやり合うのをやめないものだから、私は思わず噴き出して笑い始める。すると二人は互いの顔を見合わせて、ぷっと噴き出した。
「ははは」
「うふふふ」
「ふはははは」
「くすくすくす」
「きゃははははは」
サラもダグも加わり、私たちは五人で声をたてて笑った。虎の姿のまま私を抱き締めるタニアの毛皮に埋もれたまま私も笑い、ようやくタニアから起き上がった時には、涙を拭かなければならないほどだった。
ああ、面白かった。
昨晩もお風呂で楽しかったけれど、仲間たちと笑い合えるのはまた格別な喜びがある。
私は片手で涙を拭きながら、まだ笑いの余韻が残っているタニアの毛皮を撫でてなだめた。(続く)
第57話までお読みいただき、ありがとうございます。
仲間たちと合流できた鞠絵さんですが、このあと何が待ち受けているのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




