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第54話。天然温泉で炎竜の女性たちと印のウロコを見せ合ったりして遊ぶ鞠絵。部屋に戻るとルイが鞠絵の部屋にやってくる。

第54話です。

「あら?背中にウロコがあるんですね?」

 肩甲骨の間にきらきら光っている、何枚もの赤いウロコ。

 するとその女性は振り返って微笑んだ。

「ええ、炎竜ですから。これがあることは私たちにとって誇りです。混じりものは体のどこかに種族を示す印がありますが、真竜は背中にそれぞれの色をもったウロコがあるのですよ」

「へえ…そうなのですね」

 他の女性たちが私を覗き込んで、にっこり笑った。

「マ・リエ様は胸の合間に、青銀色のウロコの形をした痣がおありなのね」

 あっ、バッチリ見られてた。

 自分の胸にウロコ型の痣があることは、ユニコーンの村で体を拭いたりする時に見て知ってはいたけれど、場所が場所だけにちょっと恥ずかしいのよね。

「とても美しくて素敵ですわ」

「枚数は少なくてはっきりしたウロコではないけれど、それもマ・リエ様らしいです」

「謙虚でとてもお可愛らしい」

「そ、そんなことは…」

 四人を見回したが、彼女たちが本気でそう思ってくれていることがわかった。だから私はお湯のせいだけでなく頬を赤らめて、ぺこりと頭を下げた。

「あ…ありがとうございます」

「そんな。お顔を上げてくださいまし」

「ほら。私の印も見てください」

「あらずるいわ。私のも」

「じゃあ私も」

 私は声をたてて笑い、己が腕で胸を隠しながら胸の間だけ見えるように体を起こした。

「皆さんありがとう。私の印はちょっと恥ずかしいところにありますけど、これが聖銀竜との混じりものの証です」

 そんなふうに言って、見てもらう日がくるなんて、思ってもみなかった。

 私たちはお互いの印を見せ合ってきゃっきゃと笑い合い、星空と明るい灯の下で露天風呂の中、お湯を掛け合ったり広い浴槽の中を追いかけっこしたりして遊んだ。年配の二人は途中から追いかけっこには加わらず、浴槽の縁に座って手を叩いて応援だけしてくれた。

 湯あたりしそうになるまで遊んで、名残惜しくお湯にもう一度浸かった私は、ようやく湯の中から立ち上がった。

「ふう。楽しかったです!そろそろ上がりましょう」

 何だか途中から、癒しの時間というより遊びの時間になってしまったなあ。

 私たちは浴槽から出てお湯で体を流し、脱衣所でお互いの髪をまたきゃあきゃあ言いながら拭きっこした。

「マ・リエ様の御髪、とても綺麗!ほら見て、洗い立ては特にキラキラしてるわ!」

「青銀色の髪が輝いて、ピンクに染まった白いお肌に引き立っていますね!」

「ローズクォーツ色の瞳が本当に綺麗…こんな色の瞳、見たことがないです」

「いいなあ、うらやましい…」

 口々に褒められてすっかり照れくさくなっている私に、最も年かさの女性が溜め息をつきながら言った。

「小さな手足がお可愛らしい。こんな小さなお体で、私たちをお救いくださったなんて。炎竜の封印は火山の火口の中にあります。そんな中で封印を強化してくださったなんて、どれほど勇気が必要だったことでしょう。どれほど、怖かったことでしょう。マ・リエ様、あなたは本当に強い女性です」

 私は俯いた。違う、そんなことない。私はただ、この世界で自分という存在を自分で、そして周りに認めてもらいたかっただけよ。

 そして、関わった人たちを救いたかっただけよ。

「マ・リエ様。あなたには本当に、感謝しているのですよ」

 私はその言葉に顔を上げ、炎竜の女性たちに答えた。

「私のほうこそ、ありがとうございます。あなた方の燃えるような真っ赤な髪も、艶々でとても美しいですよ。少し浅黒い肌の色も健康的で素敵です。炎のような瞳も炎竜の証。素晴らしいです」

 微笑んでそう褒め返せば、四人の炎竜たちのうち年配の二人は瞳を細めて微笑んだ。女性は何歳になっても姿を褒められるのは嬉しいものですもの。わかるわ。

 まだ年若い二人はきゃあ、と声を上げて喜びながら、そうかな?私綺麗かな?と髪を梳いたりして笑っている。一人は燃え上がり波打つような髪を、一人はするりと指から抜け落ちそうな真っ直ぐな髪をしていた。

 その後もお茶を飲んで水分補給をしながらおしゃべりをして、私はやっと部屋へ戻った。

 ふう、疲れた。けれどとても楽しかったわ。年配の方に褒めてももらえたしね。

 そういえば…ルイはどうしたのかしら。私と同じように何人かで楽しく入浴したかしら。

 広い部屋にまた一人になった私は、ぼんやりとそんなことを考えていた。

 コンコン、とノックの音がするまでは。


   ◆ ◆ ◆


 ルイは緊張して拳を握りしめた。立ち止まってからどのくらい経っただろう。目の前には木の扉が閉まっていて、廊下からの明かりに薄ぼんやりと照らされている。

「…マ・リエ」

 小さく呟いてみた。緊張が増しただけだった。

 ルイは唇を噛み締めて、ごくりとひとつ喉を鳴らし、乾いた口内を無理に湿らせた。

 握り締めた拳に浮き出た間接の部分を木の扉に当てる。コツ、という小さな音が妙に大きく彼の耳には響いて、心臓の音が胸からどっくん、どっくんと鼓膜にとどろくような気持ちに、口を開けて大きく息を吸い込んで、吐く。

 ここまで来て引き返せないと、ルイは扉に置いた拳を持ち上げて、もう何も考えずにコン、と強く扉を叩いた。思ったより大きな音がした。

 しばらく置いて、今度は二度。

 コンコン、という明瞭な音が廊下に響いてから、はい、と室内から応えがあるまでの間の、なんと長かったことか。

「誰ですか?」

 扉の向こうの、若い女性…否、少女といっていい年頃の娘の声。ルイの胸は先程とは違った意味で高鳴った。

 正直、応えがなければ二度のノックだけで自室として与えられた部屋に戻ろうと、ルイは決めていた。だから、彼女の声がしただけで、自分の望みが間違っていなかったのだと示されたかのようで、彼は嬉しかったのだ。

「オレだ、ルイだよ、マ・リエ」

「ルイ?どうしたの、もう夜よ?」

 彼女の声はまだそう遅い時間ではないとしても、夜に少女の部屋を訪れた男を責めるものではなく、純粋にルイを心配してのものだとわかった。それはとても彼女らしかった。ルイは口元を綻ばせ、そっと扉に近寄って、大声にならないように言った。

「その…少しだけ、出てこられないかと思って」

「え?」(続く)

第54話までお読みいただき、ありがとうございます。

ルイは一体何の用なのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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