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第53話。炎竜の女性たちと天然温泉に入る鞠絵。

第53話です。

「こんなお方が、我らをお助けくださったとはねえ」

 年長の女性が私の手を取って、優しく引いた。竜といえど、ヒト型になっている時の体温も手触りも、人間と変わらない。何だか胸が温かくなる。

 私を温泉まで導いたのは、この年かさの女性を始めとした四人。もう一人は私のお母さんくらいの年齢だろうか。残る二人は私より少しばかり上、ルイと同じくらいの歳に見えた。

 温泉は館の隅、火山に近いほうにあり、豊かな水源からあふれる源泉は館に引き込まれる間にちょうど入浴に適した水温になるという。

 つまり、源泉かけ流し。

 かけ流し。

 大事なことだから二度言いましたが、なんて素晴らしい響きなの…!楽しみすぎる。

 四人の炎竜の女性たちは、脱衣所で自分の、そしてお互いの体を見てきゃあと声を上げた。

「ほんとに!ねえ見ても本当にどこにも滲みがないわ!」

「私も!ほら!」

「そうね。私もここに滲みがあったけれど、綺麗に消えているわ。貴女の背中も綺麗になってるわよ」

「すごい!全然痛くないから、そうかなって思っていたの!嬉しい!マ・リエ様、本当に嬉しいです!」

 そうよね、年齢に関係なく、女性には特に…体に黒い滲みがあるなんて辛いことだものね。痛みや苦しみを伴うものなら尚更のこと。

 それが綺麗に消えてしまったのだから、彼女たちの喜びは真っ直ぐに伝わってきた。

 本当に、浄化してあげられて良かった。私の心まで洗われるみたい。

「ささ、温泉はこちらです」

 扉を抜けて体を洗う浴場に入ると、硫黄と水の匂いが漂ってきた。なんて懐かしい匂い。小さい頃に一度だけ、お母さんと行ったことのある温泉の匂いを思い出す。

 うーん、楽しみ!

「掛け湯をしましょうね。お背中、流させていただきます」

「まあ、真っ白でなんて綺麗なお肌なんでしょう!」

「あ、あの、自分で洗えますので」

「何をおっしゃるんです!私どもがお世話いたしますわ」

「ぜひお世話させてください」

 石鹸をつけたボディスポンジを手に、四人の炎竜たちが私に迫ってくる。私は何も持たせてもらえない状態だ。

 仕方がなくて、顔などのどうしても自分で洗いたい場所以外は、皆さんに洗ってもらうこととなった。

 女性たちは私の髪を洗っては誉め、肌をスポンジで撫でては誉めてくるものだから、浴場の温度のせいだけでなく私は真っ赤になってしまう。

「あっいえそこは、自分で洗いますから」

「まあ、遠慮なさらなくていいのに」

「いっいえ、その、お願いですから…」

「わかりました、恥ずかしがり屋さんでいらっしゃるのね」

 もう。女性にはいろいろあるんです。皆さんだってそうでしょう?

「では私は失礼して胸を洗わせていただこうかと」

「えっ!?きゃあ!いっいいですいいです、勘弁してください!」

「ふふふ、本当にお可愛らしい」

 完全にからかわれているのだとわかったが、私は全身真っ赤にして逃げ回った。

「マ・リエ様、もうからかったりいたしませんから、戻ってきてください」

「泡を流して、浴槽に浸かりましょうね」

 うっ…よ、浴槽には入りたい。楽しみにしてきたんだし。

 私はじとっ…と女性たちを警戒しながら、彼女たちの元に戻った。笑いながら私を洗い流してくれる四人の声が、浴場に響き渡る。

「もう…皆さんたら…」

「さあ、こちらへマ・リエ様。気持ちいいですよ」

 四人に伴われて浴槽のあるほうへ行ってみると、形も大きさも違うがどれも大きい浴槽がいくつもあり、ドアの向こうには露天風呂もあるとのことだった。

 とぷとぷとお湯があふれ出て浴槽に注がれる音と、湯と硫黄の匂い。もあっと広がる温かく湿度が高い湯気が、体を包む。

 そのどれもが、ほとんど家の狭いシャワーと浴槽しか知らない私には、とても新鮮で感動的に映った。

「わあ、こんなに広い浴槽初めて!」

「お好きなところへどうぞ。露天に行ってみますか?」

 えっ露天風呂!?それはもちろん!行ってみたい!

「はい!」

「ではこちらへ」

 ドアを開けると、そこは外へ通じていた。まるで南国のように大きな木が何本も生い茂っていて、その下に大きな浴槽がたっぷりとお湯をためている。

 もう夜だから暗いはずなのに、あちこちに灯りが灯っていて、十分に明るかった。

「わあ…!」

 手すりに掴まって恐る恐る湯の中に下りてみると、じんわりと足先から温かさが滲みてきた。お湯の中にそっとしゃがむと、ちゃぷん…というわずかな水音と共に、湯の温みが全身に広がる。

「ふわあ…」

 思わず声を出すと、口の中にも湯気が入ってきて直接喉をあたためてくれた。

 うんそうだよね!歌ってるんだから、喉は大切にしなくちゃ!

 そんな気持ちにかられて、大きく口を開ける。息を口から吸いこむと、しっとりと湿った空気が喉を潤してくれた。

「ふう…」

 息を吐くと、お湯から立ち昇る湯気が直接顔をぬくめてくれて、心地よさの中にふわあと投げ出されたかのよう。

「はあ~…きもちいい…」

 炎竜の女性たちに洗ってもらった、背中の真ん中くらいまである青銀色の髪を頭の上でひとまとめにした私は、浴槽に沈みこんで深いため息をついた。

 ああ…幸せ。

 お湯による心地いい圧迫感が、その熱と共に体をほぐしてくれる。

 頭上でさわさわと木々がたてる葉擦れの音、お湯が浴槽に流れ込む水の音。

 うっとりと目を閉じてしばし浸っていた私は、ざばりという音ではっと目を開けた。

 私を囲んでいた四人のうち、一人の女性が少し体を起こして後ろを向いたところだった。ちょうどその濡れた背中が見えて、私はあることに気づいた。(続く)

第53話までお読みいただき、ありがとうございます。

鞠絵さんが気づいたとあることとは。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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