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第49話。炎竜の館に戻った鞠絵に対し、集った150人もの邪気に汚染された炎竜たちは、彼女が聖銀竜との混じりものと知ってざわめく。そんな中浄化の歌を歌う鞠絵だが、果たして…。

第49話です。



 私たちは火口に張り出たバルコニーから出て、来た時と同じように扉を開け閉めしつつ別館に戻り、今度はダラス様も加わって、また炎竜の街の広場へと下り立った。

 リヴェレッタ様が指揮をとって、炎竜たちを領主の館の広い庭に集めることになった。彼らは程度の差こそあれ、一度は封印を支えているため、全員が邪気に汚染されているとのこと。

 体に汚染を抱えて、今まで辛かったことでしょう。早く全員綺麗にしてあげたい。

 私たちは広大な庭が見渡せる三階のバルコニーに出て、炎竜たちが集まってくるのを待った。彼らは邪気を外に出さぬため、封印に関わった後は館の中で引きこもっていたそうだ。万が一にも邪気が館の外に漏れ出ていかないように、館の周りには常に結界が貼られていると言う。だから結界内でのことは、館の外には届かないので心配ないとも。

 リヴェレッタ様が外に出る時には、自らの炎の魔力で結界を体の周りに張って、邪気が漏れ出ないように、また見えないように隠していたらしい。

 ぞろぞろと庭に出てくる炎竜たちは、ヒト型で頭から布を被り手足も長い服を着ていた。邪気が見えないようにしているだけなのか、それとも汚染された部分が外気に触れると辛いのか。

 その数は百五十人ほどだと言う。

「皆の者」

 リヴェレッタ様が声をかけると、皆が三階を振り仰ぎ、あっと声を上げた。

「ダラス様!?」

「ダラス様がおいでになる!」

「どういうことだ!?」

「封印は…炎竜の封印はどうなったのだ!?」

「まさか…」

「しかも…ダラス様は邪気に侵されていない…何故だ!?」

「静まれ皆の者」

 リヴェレッタ様がバルコニーから、ざわめく皆に手を挙げて鎮めた。それから私を振り返ってその右手に私の左手をとると、中央にエスコートして炎竜たちの前に立たせた。

「皆の者、この方は皆が見てわかる通り、聖銀竜様との混じりものであらせられる。マ・リエ・ナギ殿だ」

「ナギ様…ですと!?」

「あの…一万年前の?」

 炎竜たちが、目深に被っていた布を後ろにずらして一斉に私を見た。

 一部は黒く染まった三百もの赤い瞳に凝視されて、私は思わずごくりと喉を鳴らして一歩後ずさりそうになるのを、必死に意思の力だけで押し留めた。

 それくらい、皆の眼圧が凄かったのだ。

「聖銀様?いや聖銀様はもうこの世にはおられないはず」

「しかもナギ様とは」

「本当に、聖銀様なのか?」

 騒然となる炎竜たちを、リヴェレッタ様は手を挙げて制した。

「そうだ。この御方は一万年前に行方不明となられたナギ様と、別の世界のマ・リエ殿とが融合された御方。そしてこの世界に戻ってきてくださったのだ」

 そのリヴェレッタ様の説明に、炎竜たちは息をのんだ。

「なんと…そんなことが」

「ではその御方が、本当に聖銀様との混じりものでいらっしゃるのか」

「その通り。私がこの地にお連れしお願いしたのだ。この御方は我らが守りし聖銀竜の封印を強化し、ダラスを解き放ってくださった。安心せよ、今はその上に私とダラスで張った炎竜の封印が施されている状態だ。もう、心配することはない」

 おお…と、炎竜たちから歓声が上がった。

「不安ならば、代表の者が確認しに行くがよい。だがその前に、聖銀竜様がお前たちを清めてくださる」

 その一声に、炎竜たちはどよめいた。

「なんと…!我らをも邪気から解き放ってくださるというのですか」

「そうだ。これからマ・リエ殿が歌って、そなたらの邪気を祓って下さる。マ・リエ殿はナギ殿と融合したことによって、歌による御力を得ているのだ。その御力は、既に我らが体験済ゆえ保証する。皆、静粛にして聞くように」

 い、いや、そんなにプレッシャーを与えないでください。

 リヴェレッタ様は内心すごく焦っている私を振り返り、バルコニーの柵のところまで丁重に導くと頭を下げた。

「マ・リエ殿。ここにいるのが邪気に汚染されている者全員です。どうか、彼らの邪気をお祓いください…お願いします」

 あああああ。こんな大勢に下からガン見されている状態でですか。

 いや、もうこれは、頑張るしかない!

 私は頷いてバルコニーの柵ギリギリまで出て行くと、お腹の前で手を組んだ。お腹に力を入れるのよ、鞠絵。

 およそ百五十人の炎竜たちが、私を見上げる。その顔には黒い滲みがある人もいて、全員が辛そうな表情をしていた。

 ナギ、これはさっきの歌でいいの?

『よい。我の力を乗せる。邪気を全て取り払い、この館にも響かせて館ごと浄化しよう。ユニコーンに風魔法を使わせよ』

 私は背後のルイを振り返った。

「ルイ、これから歌う私の歌を、風魔法で館全体にいきわたらせられる?」

「できると思う。お前が歌い始めたら発動させよう」

「それじゃあ、お願いね。ありがとう」

 私は息を吸い込み、先程火口で歌った浄化の歌を再び歌った。

「ここは炎の領域ぞ 黒き邪なるもの 在る場所に在らず

 世界の裂け目より滲み出てきたものよ 光となりて

 この世に仇なすものでなく 祝福与えるものとなれ

 善きものとなるべく 力を貸そう

 おお 世界の裂け目よりあふれしものよ 光となれ

 きらめく光となるべく 浄化されよ 清められよ…!」

 歌が始まると、庭に集った炎竜たちが一斉に金色の光を帯びた。きらきらと、百五十もの人影が金にまたたく光に覆われていく。

 その様は、眩しい朝の夜明けの光を直接見るのにも似ていた。

 その光がやがて治まっていくと、私の歌の間しん…と静まり返っていた庭は、ひそやかにざわつき始める。

「お…」

「おお…」

「ない…」

「滲みが、ここにあった滲みがない」

「え…本当に?」

「お前の顔の滲み、なくなってるぞ」

「あなたの首の滲みだって。あんなに真っ黒だったのに」

「本当に?」

 ざわざわと、庭が徐々に大きな声に包まれ始める。自分の体を、お互いを確認する皆に向かって、リヴェレッタ様が声を上げた。

「どうだ、まだ不調がある者はいるか!」

「ありません」

「ありま…せん」

「いたく…ない…」

「もう…つらく…ない」

 次第に泣き声のように、あちこちからどこも悪くない、という声が上がり始める。

 誰も彼も、自分の体の腕や脚、胸や腹をぺたぺたと触っては、服を捲り上げて滲みを確認する者までいた。

「もうどこも痛くありません。もう辛くありません…!」

 女性の何人かは、そう叫びながらぺたりと座り込んでわあわあと泣き始める者までいた。年配の者たちが泣くでない、と彼女たちを叱咤する。

「お前たち!お救いくださった聖銀様に御礼を述べるのが先であろう!」

「ああ…ありがとう…ございます…!」

「聖銀様…っ、ありがとうございます…!」

「マ・リエ様の歌で、我らは救われた…!」

 百五十人の炎竜たちが口々に上げる泣き声や歓声で、館の庭は騒然となった。

「え、ええと…続いて祝福の歌も歌ってしまっていいですかね…」

「えっそれは是非!皆の者、マ・リエ殿がもう一曲歌ってくださる!」

 するとあれだけの騒ぎが嘘のようにぴたりと止まった。これだけ人が集まっているのにちょっと怖くなるくらいの静けさの中、私は火口で四人の炎竜に歌った祝福の歌を、今度は百五十人に向かって声を高らかに歌った。

「竜よ 気高き赤き竜よ その身に炎宿す竜よ

 浄化の炎まとう その美しき在り方よ

 いついつまでも その存在が続くよう 我祝福の歌を歌う

 炎の先端のごとく 揺らめきながら

 炎の竜の輝きよ 時を超えて続きますよう」

 歌が終わると、今度は静かなざわめきが炎竜たちの間に広がっていった。

 やがて、一人がその膝を地面に着くと、それを皮切りに一人、また一人と膝を着いていく。

 バルコニーに向かって、百五十人の炎竜たち全てがその膝を地面に着くのに、そう時間はかからなかった。

 えっちょっと…ちょっと待って、まさか。(続く)

第49話までお読みいただき、ありがとうございます。

ついに浄化に成功する鞠絵さんですが、150人もの炎竜たちに膝まづかれてしまいました。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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