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第48話。鞠絵はついに、世界のほころびをその目にする。そのほころびとは…。

第48話です。

「…!」

 ジクザクに走り白銀色に光る聖銀竜の封印の向こうに見えたのは、真っ赤なマグマの上の空間に一文字に走る、黒い線だった。

『あれがほころびだ。あれは初めこそ線のように見えるが、段々と太くなり、中央が膨らんでまるで目のようになってくる。その目から泥のような邪気があふれ出てきて、徐々に周囲を呑み込んでいくのだ。そうならぬよう、神金竜がほころびの瞳を閉じて、聖銀竜が縫い付けるように封印を施し、維持していく。我らが補強した封印も見えるだろう?』

 え…ええ。

 私はごくり、と喉を鳴らしてほころびを見つめた。

 それはとても…異様な光景だった。

 だって、本来なら何もないはずの空間に、誰かがいたずらで書いたような黒い線が一本引かれているのだ。

 その線ははっきりしているのではなく少しにじんでいて、邪気がにじみ出ているのだとわかった。聖銀竜の封印ががっちりと縫い留めているから、今はもう邪気は食い止められているが。

 これはこの世界が負った傷なのだ。

 見えるのは真っ黒な、たった一本の線。

 でもその線の向こうは、明らかに別の世界なのだとわかる。

 あれが瞳となって開いたら、向こうの世界から邪気があふれ出てきて、私たちは皆、汚染され呑み込まれてしまうのだと。

「あれが…ほころび…」

 今まで単にほころびとだけ聞いていて、もっと簡単に考えていたけれど…本能的に、これは命をおびやかすものだとわかる。

 この、たった一本の黒い線が。

 じんわりと開いて、瞳となって、その瞳から噴き出してくるものが、この世界を滅ぼすのだ。

 恐ろしかった。

 私はきつく、柵を握り締めた。

『あれが今後、我らが封じ直していかねばならぬものだ、マ・リエ。わかるか?』

 うん。

 黒い線の上をジグザグに縫うように、白銀色の線が走っている。それは私の歌とナギの力によって、今は太くがっちりと、黒い線を縫い留めて強く明るく頼もしく輝いていた。 

 でも…このほころびが、世界にあと何本あるのだろう。

 十本?百本?それとも…一万本?

 それらは全て、神金竜が閉じて聖銀竜が封印を施しているのだろうけれど。

 でもそのうちのどれくらいが、ここのように封印が緩んできているの?

 古いものでは一万年が経っているのよね?

 私はゾッとした。

 この世界に残っている聖銀竜は今、ナギただ一頭。だから私たちは私たちだけで、緩んだ聖銀竜の封印全てを封じ直していかなくてはならないのだ。

 そんなこと…できるんだろうか。

 私に…世界の全てのほころびを封じるなんて、到底無理なんじゃないだろうか。

 どうしよう。

 間に合わなくて、他のほころびを封じている間に、他のたくさんのほころびが瞳となって開いていってしまうんじゃないだろうか。

 私たちだけでは、無理なんじゃないだろうか。

 雷虎の村の村長の言葉が、頭の中に響いた。

『あなたの重荷を背負うことは誰にもできませぬ。あなた様がこの世界でただ一人の聖銀様であらせられる限り、代わることも分け合うこともできませぬ』

「マ・リエ」

 私の背中に、あたたかいものが触れた。それはルイの手のひらだった。大きくて、頼もしい。

 今は十六・七歳の細くて小さな私の背中を、彼の手が優しく数度撫でた。

「オレがいるからな」

 ここに…と囁かれて、私はほっとして頷いた。私の葛藤に気づいたかのような彼の囁きと手は、まるで魔法のように私の不安を払拭してくれた。私を安心させてくれる、大好きな手。

 そうだ、私は一人じゃない。

 私は雷虎の村の村長の、言葉の続きを思い出した。

『ですが、あなた様を支えるため手を差し伸べることはできます。皆あなた様の助けになりたいと望んでいることを、どうか忘れないでいただきたい』

 ルイの更に背後から、リヴェレッタ様が心配そうに声をかけてきた。

「マ・リエ殿。大丈夫ですか?」

「あ…はい。聖銀竜の封印はしっかり張られているようです」

 リヴェレッタ様は表情をやわらげて、あなたのおかげです、と微笑んだ。

「炎竜の封印は後ほど皆でしかと結び直しますが、とりあえずは心配ですから一重だけでも私が」

「リル、オレもいるではないか。二人で一緒にやろう」

「ええ、あなた」

 あー、仲がいいご夫婦ですね。見せつけられてる気がすごくする。私は少し落ち着いた気持ちで、二人がそれでも十分本格的な封印を施すのを待った。

「我らが炎の竜の力よ。リンガル・リヴェレッタとダラス・ロイの名において、燃え上がりここにその力示せ。その背にあるもの守る、強固たる封印となれ…!」

 火口の上に丸見えとなっている聖銀竜の封印の上の空間に、ぐるり、と赤いペンで描いたように大きな円が現れ、みるみるうちに複雑な紋様がその中に描かれていった。それは描かれる端から赤く輝き、二人が呪文を唱え魔力を注ぐうちに、やがてすっかりと火口との間に、聖銀竜の封印を覆い隠すほどの大きさとなった。

 聖銀竜の封印は今や、大きな円の中の炎竜の封印の複雑な紋様の合間から、ちらちらと見えるだけとなっている。

 そうよね、全部覆い隠してしまったら、聖銀竜の封印がどうなっているのか上から確認できないものね。少しでも見えていないと。

 その紋様を見て、私はさっきのダラス様を絡めとっていた炎竜の封印を思い出した。あれはまるで蜘蛛の巣のように見えていて、こんな複雑な紋様ははっきりとわからなかった。

 あれは相当に形が崩れてしまっていたんだ。それを体内の魔法回路で維持していたのだから、ダラス様は相当きつかったことだろう。

 これが本来の炎竜の封印なのね。

 やがてふう、と息をついて封印を確認した二人が、私を振り返る。

「お待たせいたしました。即席のものではありますが、これで当面は大丈夫ですので、戻りましょう。炎竜の領主の館にて、皆を集めますゆえ」

「はい」

 私は柵に張り付いたようになっている手と、二重の封印の向こうにあるほころびに吸い付いたようになっている目線を無理やりはがして振り返った。

  そうだ、やるしかないんだ。

 それがどんなに険しい道でも、どんなに無理だと思えても、私たちはやれるだけのことをするしかないんだ。

 この世界に来てから出会ったキアやケリー、ミシャにザイン。ユニコーンの村の人々。

 サラやダグ、ルイやタニア。雷虎の村の人々。

 トリスラディ様親子とハンナ様、ペガサスのエル。

 それから…それから。

 私は出会った人たちの顔を思い出した。

 この人たちを守りたい。

 だから、この世界を守りたいの。

 私に優しくしてくれた皆が生きていけない世界になんか、したくない。

 そうでしょ、ナギ?

『そうだな、マ・リエ』

 優しい声で、ナギがそう答えてくれた。

 胸が痛くなるような、切なくなるような愛しさを感じる。

 それはナギの本能なんだろう。神の魂からくる、この世界と生命に対する愛情が、ひしひしと伝わってきて、私の胸も熱くなった。

「どうした?マ・リエ」

 ルイが優しく微笑んで差し伸べてきてくれた手に、私はそっと右手を乗せた。

「ううん、なんでもないの。行きましょう、ルイ」

 振り切ったような私の笑顔を見たルイが、またちょっと顔を赤らめた。(続く)

第48話までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は少し短めですみません。この後、炎竜たちを浄化します。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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