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第46話。身を挺して聖銀龍の封印を守っているダラスの向こうにほころびはある。鞠絵は聖銀竜の封印の修復及び強化のため、心をこめて歌う。

第46話です。

「相当辛いはずなのに…彼はずっとああして最後の炎竜の封印を守ってくれてるんだ。てめえの体の中の魔法回路につないで、不安定な封印を支え、邪気があふれ出るのを防いでくれてる。でもこのままじゃ…炎竜の封印はもう限界だ。彼の力が尽きた時、封印もまた消えるだろう。そしてその時は…そう遠いことじゃない」

 そして私を見つめた彼女の赤い瞳が水に沈むように潤み、その頬にはほろほろと透明な涙が何粒もこぼれ落ちた。

「聖銀様…彼をお助けください。お願いします…」

 ああ、自分の大切な人が、苦しみながら段々と弱っていくのを見るのは、どれほど辛いことだろう。

 私もお母さんを見てきたから、よくわかるよ。

 自分は何もできないまま、ただ見ていることしかできなかった。

 その人の力を信じるしかなくて、祈ることしかできなくて。

 リヴェレッタ様は彼の手を握ることさえできずに、どれほど辛かったことだろう。

 だからリヴェレッタ様は、私をユニコーンの村から連れ出す時、きっと恐ろしいほど必死だったんだろう。彼女と初めて対峙した時のことを思い出して、私は悲しくなった。

 神金竜の力に騙されて、私のことも聖銀竜の力を騙る偽物だと思ったら許せなくて、あんなにユニコーンの村で荒れて、そして私が本物だと知って必死に連れ帰ろうとした、リヴェレッタ様。

 もしかしたら、最初に炎竜の封印を繋いで邪気に真っ黒に汚染されて死んでしまったのは、彼女の血縁だったのかもしれない。

 私にどれだけのことができるのかわからないけれど、彼女の心に応えるために、やれることは頑張ろう。

「ほころびの封印はどこにあるんですか?」

 そう問うと、リヴェレッタ様は黒い竜を指し示した。

「彼の背後に、あと四つ炎竜の封印があるはずでした。更にその先にほころびがあります。火口のマグマの、本当にすぐ傍です」

 なるほど、彼の背後にあるのね。ではここからはほころびは見えないのか。でも聖銀竜が張った封印はほどけかけていて、そこから漏れ出た瘴気が濃度を増して邪気となっているのを、ダラス様がその身を挺して、あふれ出すのを止めているんだ。

 その邪気が、マグマが見えないほどにダラス様の背後に渦巻いている。

 ナギ、これはどうしたらいいの?どちらを先にすべきなの?

 ほころびと邪気の気配を感知して薄く目を開いているナギに問いかけると、低い声で反応が返ってきた。

『この黒い竜をどかしてしまえば、邪気があふれてくる。先に聖銀の封印を強化し、間に溜まった邪気を祓うべきだ。そうすればあの竜を使わずとも、聖銀の封印の上に施される何重もの炎竜の封印を作り直すことができるだろう』

 ほころびを見なくても封印を強化できるの?

『できる。これは我が張った封印ではないが、感じ取ることはできる。ほころび同様にな。だから強化はできる』

 そうなんだ。良かった。私は歌ったほうがいい?

『我の力はまだ弱まったままだ。そなたが歌ってくれれば、それに我の力を乗せられる。頼めるか、マ・リエ』

 もちろんよ。私にそれができるなら、この人を…いえ、この人たちを助けてあげたいもの。

『うむ、そうだな。そなたならできる。だが聖銀の封印を修復し強化することも、溜まった邪気を祓うことも、その炎竜の体の魔法回路を通してするしかないぞ。炎竜の封印は不安定すぎて、別の種類の魔力がぶつかると、壊れてしまう危険がある』

 そうよね、聖銀竜の封印はダラス様の奥にあるのだものね。

 彼の体の魔法回路を通して、まずは聖銀竜の封印のほうを強化しなくては。

 私は頷いて、まだ柵から覗き込んでいる、長い赤い髪で覆われたリヴェレッタ様の背中に向かって話しかけた。

「リヴェレッタ様、聖銀竜の張った封印の修復及び強化は可能です」

 すると赤い髪をひるがえしてぱっと振り向いたリヴェレッタ様は、明るい声で叫んだ。

「本当ですか!」

「はい。でもそれを行うには、炎竜の封印を通せればいいんですが、不安定すぎて壊れてしまう可能性が高いので、ダラス様の体の魔法回路を通すことになりますが…」

 すると、快諾すると思っていたリヴェレッタ様は息をのみ、再び黒い竜を振り返って、呟くように…呻くように言った。

「それは…無理だと思います」

「えっ」

 どうして。

「彼の魔法回路は…既に封印の維持だけで精一杯です。これ以上は…」

 しばらくの間考えこんだリヴェレッタ様が、止める間もなくいきなり柵からその身を投げ出したので、私たちは叫んで彼女の脚を掴もうと柵に駆け寄ったが、その時には真っ赤な翼がバサリ、と柵の向こうの空間に広がった後だった。

「リヴェレッタ様!?」

「何をなさるのです!」

 マグマの上の空間に炎竜となって翼を広げたリヴェレッタ様は、そのまま何の躊躇もなく、封印の一部と化している黒い竜…ダラス様に正面から抱き着く。

「リヴェレッタ様!そんなことをしては…!」

 黒い竜に触れた場所から、じわりと黒い滲みがリヴェレッタ様の赤いウロコに広がった。

 ダメよ、リヴェレッタ様まで汚染されてしまう…!

 黒く淀んだ瞳を開いたダラス様が、低い声で呟いた。

「リ…ル」

「大丈夫。心配しないで。私と聖銀様を信じて、魔法回路を私に明け渡して…あなた」

 苦し気にしながらも、黒い竜に抱き着いたリヴェレッタ様はしばらくの間じっと目を閉じていたが、やがて決意を秘めた赤い瞳を開き、皆と同じように柵から身を乗り出している私を振り返った。

「今、彼と私の魔法回路を繋ぎました。彼ではなく、私を通して聖銀様の封印を強化してください」

「!」

 そうか、それなら。

 じんわりと、赤いウロコに黒い滲みが広がっていくのに、私は焦った。

『慌てるな、マ・リエ。間に合わせてみせよう』

 ナギが静かに言う。

「わかりました、リヴェレッタ様…!必ず成功させます!」

 私は柵から身を乗り出したまま叫んだ。それにリヴェレッタ様も応える。

「はい、お願いします…!」

 ダラス様と彼に抱き着いたリヴェレッタ様の向こうに、どろどろとした邪気の合間から燃え盛るマグマが見える。炎竜の加護がなければ、とても立っていられる場所ではない。

「マ・リエ、落ちないようにオレが支えていようか?」

 ルイが声をかけてくれたけれど、私は首を横に振った。幸いと言おうか、私の身長は低い。リヴェレッタ様のように高身長ならともかく、私が落ちる危険は低いだろう。

「大丈夫。でも後ろにいてくれたら心強いわ」

「わかった。ここにいるからな、マ・リエ。辛くなったらオレに寄りかかればいい」

 そう言って、ルイは私のすぐ後ろに立ってくれた。

 その心遣いが本当に嬉しくて、私は彼を見上げて微笑んだ。

 少し照れたように、ルイも笑い返してくれる。

 そうして笑い合うと、少しだけ緊張の糸がほぐれた。

「ありがとうルイ。あなたは色んな意味で、私を助けてくれるのね」

 そう御礼を言って微笑むと、ルイはマグマの照り返しよりも赤く目元を染めて、口の端を上げ力強く頷いてくれた。

 彼の笑顔に後押しされて、私は火口へ向けて振り返り、大きく息を吸い込んだ。

 さあ、リヴェレッタ様とダラス様のためにも頑張ろう。

 私は胸から上を柵から乗り出すようにして、覗き込んだ火口へ届けと声を張る。

「燃え盛る炎の眷属の その身を通し

 我らが同胞(はらから)の張りし封印よ 我が声を聞け

 白銀色に輝く その糸を 張りし者を覚えているか

 そなたが支えるは けして開かれてはならぬもの

 細き糸よ 太く強き糸となり 結び合わされたまえ

 この世ならぬもの 痛み呼ぶもの 閉め出すため

 その力白銀色に輝き 太く強くなりて

 この世のものならぬほころびを しかと結び合わせたまえ」

 ナギの声も混じった歌声は二重奏となって、ナギの封印の力をほころびへと届けた。

 二頭の竜がいるため直接は見えないけれど、封印が強く、強く結び直されることをイメージして、私は精一杯歌った。

 下にマグマの渦巻く洞窟の広場に、私とナギの声が反響してより大きく響き渡る。

『これで良し』

 ナギの声に、歌っていた私は我に返った。

 柵から覗き込んでもやはり直接は見えなかったけれど、ほころびの上に施された聖銀竜の封印が、太さと輝きを増してしっかりと結び直されたのが感じ取れた。

 やった!うまくいった。うまくいった、のよねナギ?

『ああ。これでかなりの期間もつだろう。次は邪気を祓うぞ』 

 はい!そうしましょう!

 私はまた息を吸い込み、歌い始めた。

「ここは炎の領域ぞ 黒き邪なるもの 在る場所に在らず

 世界の裂け目より滲み出てきたものよ 光となりて

 この世に仇なすものでなく 祝福与えるものとなれ

 善きものとなるべく 力を貸そう

 おお 世界の裂け目よりあふれしものよ 光となれ

 きらめく光となるべく 浄化されよ 清められよ…!」

 炎竜の封印を共に支える二頭の竜の背後に渦巻いていた黒い邪気が、きらきらと銀色の光に包まれた。それから、黒い竜と、黒く濁り始めた赤い竜も。

 二頭の竜のシルエットごと炎竜の封印の背後が輝き、その光が治まると、二頭の背後には既に邪気はなく、煮えたぎるマグマのみが見えた。(続く)

第46話までお読みいただき、ありがとうございます。

鞠絵の歌によって、封印はどうなるのでしょう。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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