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第45話。火山の火口にある炎竜の封印にたどりついた鞠絵たちが見たものとは…。

第45話です。

「そうか、よい心掛けだ。それでは聖銀様でもないてめえはその命かけて、おれたちについてくるがいい!」

 私への言葉遣いとの差がすごい。

「我らが御供いたします」

 私にはリヴェレッタ様が、スーリエ様とルイにはそれぞれ一人ずつ炎竜の、それも上位と思われる人たちがついて、向かったのは先程の火山だった。

 もう一度リヴェレッタ様の背中に乗って飛び上がり、少し飛んで先程見えた山の中腹の建物の傍に下りる。さすがに三度目となれば、私だってもう慣れたものよ。

 その建物は大きな三階立てで、まるでお屋敷といった感じだった。リヴェレッタ様によると、ここは炎竜の領主の館の別館だそうで、山の斜面を削って建てられているらしい。

 その館に入ると、中は石造りで温かみが感じられ、廊下のあちこちに飾られた花もよく手入れがされているようだった。木でできた扉がいくつもあったが、向かったのは一番奥の扉だった。そこだけ石で造られており、さらに重厚な鍵がかけられている。

「こちらです」

 鍵を開けたリヴェレッタ様が扉を開けると、その先は階段になっていた。魔石で灯された灯りに助けられ地下に下りると、そこは火山の中腹内とのことだった。

 目の前に再び、鍵のかかったドアが現れる。

 鍵を開け、進む。

 火山の内部の壁は洞窟のようになっていた。

 狭い通路には、炎竜の赤い封印が張られている。

「解除」

 リヴェレッタ様が手をかざして封印を抜けた。私の背にリヴェレッタ様が触れ、スーリエ様とルイには炎竜の人たちがそれぞれの背に触れていれば、同じように炎竜の封印を抜けられるようだった。

 そうしていくつかの封印を抜けていく。

 随分と厳重なのね。

 そう思ったが、スーリエ様は少し首を傾げた。

「『扉』の封じが多少緩くないか?」

 緩い?これで?

「………」

 それには答えず、リヴェレッタ様は奥へと進んでいく。

 …熱いなあ…。

 それに、遠くでごうごうという音がする。これはマグマの音だろうか…ちょっと、怖い。

「リヴェレッタ様、このままではマ・リエが熱いと思います」

 そう声を上げてくれたのはルイだった。

 リヴェレッタ様は振り向くと、私とルイとスーリエ様を見て頷いた。

「そうだな、すまない。ではそろそろ、あなた方には炎竜の加護を授けよう。これで熱さに耐えられるようになる。これは火山を出るまで有効だ」

 実際そろそろ熱くてたまらなくなってきた頃だったので、ルイの進言は本当に有難かった。リヴェレッタ様による炎竜の加護を受けると、熱でじりじりとあぶられるようだった体がすうっと楽になり、かえって涼しくさえ感じられた。

「ありがとう、ルイ」

 そっと小さな声でお礼を言うと、ルイは照れくさそうに笑って首を振った。

「我慢できなかったのはオレだから気にするな」

 またそんなこと言って。可笑しくなってふふっと笑うと、ルイは眩しそうに私を見て、パチパチと忙しなく瞬きをした。

 すっかり軽くなった体でその先を歩いていくと、ごうごうという音が段々大きく響いてきて、これがマグマの音であるとはっきりわかり、私はルイに寄り添った。

「ルイ…」

「なんだい?」

「少し、怖いわ」

 ひそひそとルイにそう訴えると、彼は右手を伸ばして私の左手を取り、ぎゅっと握ってくれた。

「大丈夫だ、オレが傍にいるから。ほら、炎竜の加護もあるし、安全は保証されているさ。心配ないよ、マ・リエ」

 そうね、ありがとうルイ。

 しかしマグマの音はどんどん大きくなっていって、あの角の向こうにはもうマグマがあるんじゃないかと思った、その時。

 果たして角を曲がると、通路の先がぽっかりと開いていた。その向こうがバルコニーのように突き出ていて、先は広い空間となっており、壁ごしではないはっきりとした燃え盛る音が響いてくる。

「ここが…最後の炎竜の封印だ」

 バルコニー部分は、落ちないように固い岩盤でできた柵で囲まれている。その柵の向こう、皆で下を覗き込むと…そこにあったものは。

「な…!」

 スーリエ様ばかりでなく、私もルイも叫びを飲みこんだ。

 突き出した岩盤の下にいたのは、巨大な黒い竜だったのだ。

 …否、あれは…。

 邪気によって真っ黒に染まった炎竜だ。

 竜の背後にごうごうと音をたてるマグマと、そして黒い邪気が渦巻いているのが、私には見えた。竜があまりに大きくて、背後の邪気の合間からちらちらとしかマグマは見えないが、そこが火口内であることは確かだった。

 竜の周りにはまるで蜘蛛の巣のように赤い炎の糸が張り巡らされていて、竜の体はその糸に絡めとられたように、赤い炎の蜘蛛の巣の一部と化している。

「これは…これが、ほころびを封じる聖銀竜様の封印を守る炎竜の封印なのか!?」

 スーリエ様がそう問うと、リヴェレッタ様は表情を険しくして首を横に振った。

「違う。これは一番外側の封印だ。昔、我らは神金様の力を持ってきたという男たちに騙されちまった。その男が持っていた石には、確かに神金様の御力が宿っていたため、封印を強化するっていう言葉をすっかり信じ込んじまったんだ。奴らはここに入ると、もろくなってきていたほころびの封印をその石によっていじった。そのためほころびの上にあった聖銀様の封印がほどけかけ、それに慌てているうちに我らのタマゴを盗み出されちまったんだ」

 スーリエ様が怒りをこめた声で問う。

「その犯人は捕まえなかったのか?」

「封印をいじった男は火口に身を投げて自死した。だが奴らは二手に分かれていて、もう一方がタマゴを盗み出していって…そちらは見つからなかった」

 私たちは、驚きに声も出なかった。リヴェレッタ様の声とマグマの燃え盛る音だけが、この空間に響いていた。

「聖銀様の封印の上に、五重にしていた我らの封印のうち四つは破れちまった。聖銀様の封印は壊れかけ、ほころびから邪気があふれ出てきたから、最後の一つはどんなことをしてでも守らなきゃならねえ。我らは自ら、壊れかけた封印の一部となり、この体の内にある魔法回路を封印につないで支えた。今まで何人もが支えたが、皆あっという間に邪気にやられてあの通り…黒く汚染された。最初の一頭が長く支えすぎて真っ黒になって死んで以来、皆で順番に支えてきた。今じゃ多少なりとも、おれの一族の多くが漏れ出る邪気に汚染されてる。でもあの人は真っ黒になっても誰とも代わろうとしないんだ。代わるとすぐおれの番が回ってくるから。でもあのままじゃ…もうじき死んじまう」

 スーリエ様が静かに頷いた。

「それで…最近、炎竜の領地が不安定だとの情報があったのだな。タマゴが盗まれた話はドラゴン会議で報告されて知っていたが…とうとう見つからなかったと聞く。だがそれはもう百年ほども前の話だ。ということは…皆で交代しながらとはいえこの状態で百年、もたせていたのか」

 リヴェレッタ様はこくり、と頷いた。

 黒く染まった炎竜を、その燃えるような瞳で悲し気に見つめながら。

「そうだ。本当はおれがあそこにいるはずだったんだよ。でも…おれの番が回ってきた時、おれの腹にはタマゴがあったから。少しやっただけで、マ・リエ殿が見たように汚染されて、それを見たあの人が代わってくれた」

 岩盤の柵を掴むリヴェレッタ様の手が震えている。

「今…封印を支え続けているあの竜は…おれの、連れ合いだ」

「えっ!?」

 あの竜は…リヴェレッタ様の、旦那様!?

 リヴェレッタ様は、ゆっくりと柵から身を乗り出して、目を閉じたままの大きな黒い竜を覗き込んだ。

「はあい、ダーリン…また、会いに来たよ。今度は封印に力を注ぐだけじゃあない。すごくいい知らせがあるのよ。聖銀竜様をお連れしたの」

 それは普段粗雑な物言いをする彼女とは思えないほど、とても優しい声だった。スーリエ様が驚いてリヴェレッタ様を見たくらいに。 

 するとその声が届いたのか、真っ黒な竜はうっすらとまぶたを開き、黒く濁った瞳でリヴェレッタ様を見上げた。

「リン…ガル?」

「そうよ、あなたのリルよ、私のダラス。調子はどう?」

 リンガル・リヴェレッタ様の夫ダラス様は、ふ、ふ…と瞳だけで小さく笑ったようだった。

 たったそれだけで、彼の周りを取り巻く邪気がゆらりと揺らめく。

「わるく、ない。心配…するな。それよりお前…腹のタマゴは、どうした…んだ…?そのために、オレはここに、いるのに…」

 リヴェレッタ様は連れ合いに再び優しく語りかける。

「タマゴはとっくに産まれたって、何度も言ったでしょ?」

「そう…だったか」

 ああ、この人、記憶が曖昧になってしまっているんだ。

「あなたのおかげで、滲みひとつない綺麗なタマゴよ。今は保育室にいて、順調に育っているわ。さあ、あなたも聖銀様に治してもらって、タマゴのところに行きましょう?」

「せいぎん、さま?」

「そうよ。あと少しだから、がんばって…あなた」

 リヴェレッタ様は柵から身を起こし、私たちを振り返って悲しそうに微笑んだ。(続く)

第45話までお読みいただき、ありがとうございます。

どうしたらダラスを開放してやれるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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