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第44話。精霊がくれた竜の木の実を食べる鞠絵。リヴェレッタの背に乗って炎竜の領地に到着する。

第44話です。

「マ・リエ。どうしたんだ?」

 ルイが心配そうに見上げてくるのに、にっこり笑って首を振る。その私の顔を見たルイが、うっすらと頬を染めた。

「精霊の声がする気がするの。私を呼んでるみたい。あっちから」

「精霊だって?オレには何も聞こえないけど…オレもついて行くよ」

「ありがとう、ルイ」

『きこえてるみたい。こっちよ、ぎんのりゅう。いいものがあるよ。こっち、こっち』

 くすくす笑う声に導かれて歩いていくと、大きな木があった。

 その木には私の拳大の実がいくつも生っていて、私が木の下に行くと一つがぽろりと自然にとれて落ちてきた。

「わっ」

 あわてて受け止める。笑う声が大きくなった。

『あげる。あげる。おいしいのよ。りゅうのきのみ。りゅうはこれがすき。おいしい。たべる。たべて?』

 竜の木の実?竜はこの実が好きなの?

 見た目はマンゴーみたいな黄色い実は、熟れて柔らかく皮がするりと剥けた。確かにいい匂いがする。

 私は皮を剥いた実をぱくりと口の中に入れた。ルイがあっ、と声をあげる。

「マ、マ・リエ、調べもしないで食べて大丈夫か!?」

 しかし私はルイの声など聞いていなかった。何故なら。

「んっ!もいひ~い!!」

「えっ?」

 もぐもぐ、ごっくん。

 何これ、すっごい美味しい。マンゴーとはまた違うけど、いやちょっと似てるかな、ねっとりしたとこなんかは。

 でもこの味!すごい、食べる口が止まらない。私の知ってるどの果物とも違う味だけれど、どの果物より美味しく感じる。

 中央に種の部分があるけれどマンゴーほど大きくはなく、果肉部分がたっぷりで食べ応えがあった。

 あっという間に一つを完食してしまった私の手元に、またぽとりと一つ落ちてくる。

『おいしい?おいしい?もっとおたべ』

「うん!ルイの分もいい?」

『いいけど、おいしいかな?』

 ぽとりと落ちてきた実の皮を剥いて、私は口の周りを汚したままルイに差し出した。

「ルイも食べてみて!本当に美味しいのよ!」

「えっそうなのか?でも」

「精霊がくれた実だから食べて大丈夫なはず。ほら」

「そ、そうか、マ・リエがそう言うなら」

 ルイは受け取った木の実をぱくりと頬張ったが、ちょっと微妙な顔をして首を傾げた。

「ね!美味しいでしょ?」

「うーん。美味しいけど…そこまでじゃないっていうか…普通っていうか…」

 精霊が私に囁く。

『このみがすきなのはりゅうだけなの』

『このこにはあんまりおいしくないかも』

 そうなのね。夢中で差し出しちゃって無理に食べさせちゃったの、悪かったかな。

 でも普通の果物並には美味しいって言っているからいいか。

 私は結局二つの実を食べておなかがぱんぱんになってしまった。食べ残した実は精霊に言われて、木の枝にいたリスに似た生き物に渡す。どこかへ運んでくれるそうだ。

『むこうのりゅうにもあげていいよ』

 ぽとぽと、と落ちてきたいくつもの実を拾い上げて、私は木と精霊に御礼を言った。

「とても美味しかったです。どうもありがとう。ご馳走様でした」

『ぎんのりゅう。またきてね』

「はい!」

 私は笑顔で頷いて、その場を後にした。

「リヴェレッタ様!スーリエ様!」

 二人の元へ戻ると、二人は振り返って笑顔になった。

「気分転換はすみましたか?ここら辺は危ないものはないので、お二人だけのほうが良いかと思いまして、ついて行きませんでした」

「はい、ありがとうございます。それよりもこれ、食べてください!」

 私が差し出した実を見た二人は目をむいた。

「これは…!竜の木の実ではありませんか!竜の大好物ですよ!一体どこで!?」

「精霊に導かれて行ったら、向こうに木がありました。お二人とも、どうぞ」

 赤い瞳と白金の瞳が極限まで見開かれて、木の実に伸ばされた手はぶるぶる震えている。

 そ、そんなに?確かにとても美味しかったけれど。

「こ、これは、創世の頃にはたくさんあったという話ですが、近年では滅多に見ないものなのです」

「そうなんですか?」

「そ、そうです。それが…ああ、もう我慢できない。お先にいただきますよ、炎殿」

「あっずるいぞ!おれも!あっマ・リエ殿、いただきます!」

 それきり二人は黙って木の実をもりもり食べ始めた。二人のあまりの夢中になりっぷりにルイは目をぱちくりさせていたけれど、私にはわかるので、両腕に抱えたいくつもの実が全て二人の胃におさまるまで待っていた。

「はー…美味しかった…いつ以来だろうか…」

「マ・リエ殿、ありがとうございます。この実がまた食べられるとは思ってもみませんでした」

 やがて二人は口の周りを汚したまま満足そうに笑ったので、私も笑ってハンカチを差し出した。

「すみません、一枚しかないので端っこずつお使いください」

「これは申し訳ない…ありがとうございます」

 やがて一息ついた二人の足元には、果肉を食べ終わったいくつもの木の実が転がっていた。これも動物が持っていってくれるだろうか。

「さて…それでは珍しい実も食べられて腹も膨れたことですし、参りましょうか」

 二人が再び竜の姿になる。私とルイが背に乗ると、結界が張られて大きな翼が広げられた。

「では、行きますよ!」

 ばさり、と一度羽ばたいただけで、一瞬で地面が遠くなる。何度か羽ばたけば簡単に雲の上に出た。

 後半はさすがに私も慣れて、少しばかり下を覗き込んだりできるようになった。街の上は飛ばないようにしているのだろう、下はずっと緑で、時折小さな村の上を飛ぶけれど、そのスピードから一瞬で通り過ぎていってしまう。

 そのうちに、大きな山が見えてきた。火山なのだろうか、もくもくと煙を上げている。山肌は岩ばかりかと思いきや、木や草がかなり上のほうまで生い茂っていた。豊かな土地なのだろうな。

 そして巨大な火山のふもとあたりに、石でできているのだろう、白い建物がたくさん密集しているのが見えてきた。

 けっこう大きな街?こんなところに?

 あっという間に近づいてきた街をまた通過して、あの煙の上を飛ぶのか、それとも横を通過するのかなどと思っていたら、リヴェレッタ様は街に向かって高度を下げた。

「我が領地にもう入っております。火山のふもとにある首都ルーガの我が館に下りますゆえ、掴まっていてください」

 そう断るが早いか、リヴェレッタ様は急降下を始めたので、私は返事をする間もなく、あわててたてがみをぎゅうと掴んでしがみついた。どんな建物に下りるのかなんて、見ている暇も余裕もなかった。

 二度めだけれど飛び立つ時と下りる時は慣れない。でも地上が近づくとやっぱり安心する。

 やがてふわりと速度が相殺されて、休憩の時と同じくリヴェレッタ様が地上に四つん這いになるような形で下り立った。

 これは直立して私が転がり落ちないようにとの、リヴェレッタ様の心遣いだ。ほんとうに有難い。

「着きましたよ、マ・リエ殿。お疲れ様でした。さあ、我が領土へようこそ」

 私がその背中から下りるや否や、ヒト型になって私を支えてくれたリヴェレッタ様がにっこり笑う。

 あ、この人、背も胸もお尻も大きいし威圧感あるけど、笑うと意外と人懐こそうで可愛らしい。やっぱり特に女性は笑うと可愛いよね。

 二度めなので、私の膝はそこまで笑わずにすみ、リヴェレッタ様に支えられなくてもすぐ立っていられるようになった。

「スーリエ様、ありがとうございました。マ・リエ!」

 ルイが下りるとスーリエ様もヒト型となる。私たちの周りには炎竜の眷属と思しき者たちが集まってきて、私から手を離したリヴェレッタ様が、司令官らしき人に説明していた。

 改めて見回してみると、そこは綺麗な白い建物に囲まれた広場だった。端には花壇があり、綺麗な花が咲いている。中央に何もないのはやはりここが炎竜たちの離着陸場だからなんだろう。

 山のふもとにある、との通り、見上げると白煙を上げる大きな山がそびえたち、中腹には何かの施設らしきものがいくつか建っていた。白い建物がとても目立つ。目印の役割もしているのだろうか。

 建物は真四角ではなくて、屋根は茶色くて斜めになっている。これはここまで火山灰が降り注いできた場合の対策なのかな。真四角だとどんどん屋根の上に積み上がっていっちゃうもんね。

 広場の周囲は二階建ての白い建物に囲まれていて、その向こうには三階建ての建物や、段差の上に建っているのだろう建物がたくさん見え、ここが街の中心部なのだとわかった。

 真っ青な空、そびえる緑の山、その中の真っ白な街。

 うわあ…目を奪われる。

 キョロキョロしながらぼうっとしていた私は、リヴェレッタ様に話しかけられて飛び上がった。

「マ・リエ殿」

「はっはい!すいません!」

「?いえ…休憩もなしで申し訳ございませんが、このまま一緒に来ていただきたいのです。スーリエ殿、ルイ殿。おれとマ・リエ殿はこれから封印のところまで行く。着いてきたければ来てもいいが、危険なところにあるからそれぞれに炎竜の守りが必要だ。一人につき一人、付き人として着いてくるがいいな?」

 あ、やっぱり私以外にはこんな言葉遣いなのねこの人。

 竜の長同士って敬語で話したりしないのかな?

 それにやっぱり、私の返事を待たずにさっさと決めちゃうんだなあ。

「かまわぬ。マ・リエ殿と共に参ろう。ルイ殿はどうする?炎殿が危険と言ったら、かなり危ないところということだが」

 するとルイは毅然とした態度で胸を張った。

「オレも構いません。マ・リエを守るのがオレの役目。どんな危険なところでも、オレはマ・リエと一緒に行きます!」

 ルイ…本当は怖いだろうに、いつもありがとう。私を守ろうとしてくれて。

 胸の中がじんわりと温かくなっていく。申し訳ないのに、嬉しくて。

 リヴェレッタ様は赤い瞳を細めてルイを見て、眩しそうに笑った。(続く)

第44話までお読みいただき、ありがとうございます。

竜の木の実はとても美味しそうですが、竜以外には普通の味だそうで残念ですね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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