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第42話。炎竜の領地へ行くこととなった鞠絵、支度をする時にルイと話をして、リヴェレッタに乗って飛び立つ。

第42話です。

「だ、大丈夫ですか?リヴェレッタ様?まだどこか、辛いところはありますか?」

 彼女は大声で泣きながら首を横に振り、しばらくの間ひたすらに泣き続けていた。私は半分パニックになりながらも、他にどうしてやることもできなくて、ただ真っ赤な髪の隙間から、触れればわかる女性らしい華奢な背中を撫でてあげていた。

 少しして、ずずっ、と鼻を鳴らす音がして、臥せられた顔からしゃくりあげながら話す声が聞こえてきた。

「…失礼…いたしました。聖銀、様」

「わかってもらえればいいんです」

 この人はどうして私を偽物扱いしたんだろう?そもそも、どうしてここに来たんだろうか。

「トリスラディ殿より…ここにあなた様がおいでだと伺いまして。偽物呼ばわりしたこと、今までの無礼はこの命で贖います。でもこれには訳があるのです。ですからどうかどうか皆を…私の仲間たちをお助けください。その後でしたら、この命喜んで差し出します」

「えっ?」

 困惑する私の腕を、滂沱と流した涙で頬を濡らし、額に土のついたリヴェレッタ様が顔を上げてがっしと掴む。

「どうか私と共に来て、我が同族をお救いくださいマ・リエ殿…!」

 その時周囲がざわめき出して、私は皆が指さす朝の空を思わず見上げた。そこには太陽の光を受けて白金色にまばゆく輝く竜が飛んでいて、広場の上をぐるりと回ると下りてくるではないか。

 あんな大きな竜が下りてくるスペースなんてない…と思っていると、地上数メートルでその姿が煙のように輪郭をぼかし、細く小さいシルエットとなって地上に下り立った。

 ヒト型となったその姿は、竜のウロコがそうであったように白金色の長い髪をして、足元まである長い白いローブを身にまとった長身の若い男性のものだった。彼は私と、私の足元にうずくまっているリヴェレッタ様を見て目をむき、すたすたと歩み寄ってきた。

「リヴェレッタ殿!一体何をしているのだ。…あなたがマ・リエ殿か?」

「ええと…はい。あなたはどなたですか?」

「これは失礼した。私は光竜の領主、ハリー・スーリエと申す者。先日、竜の会議が行われたのですが、それ以来どうもリヴェレッタ殿の様子がおかしいので、見張らせていたらユニコーンの村に向かわれたと報告を受けたのでな…あわてて追いかけて来たのです」

 えっこの人も真竜なの?ユニコーンたちがめっちゃ引いてる。村長も口を挟める雰囲気じゃないし。

「リヴェレッタ殿。何をしているのだ。様子見をすると、先日皆で摂り決めたばかりではないか」

 しゃがみ込んだ私の両腕を掴んだままだったリヴェレッタ様は、スーリエ様を見てごしごしと片腕で頬を拭い、上半身を起こした。

「スーリエ殿!この方は確かに聖銀様との混じりもので間違いない!おれがこの目で確認した!」

「それは本当か」

「本当だ!だからこれから、我が領内にお連れするところだ!邪魔をするな!」

 えっ、炎竜の領内に行くんですか?それってどこにあるんですか?というか、私まだ承諾していないんですけど!?

 私の中のナギがごそりと動いて、一言言った。

『行こう』

 えっ?行っちゃっていいの?

『あの者に滲みついていた邪気が気になる。行って、確かめる必要があるだろう』

 私が自分の中のナギと対話する間、スーリエ様は私をじっと見ていたが、やがて驚いたように金色の瞳を見開いた。その瞳もやはり、縦長の瞳孔をしていた。

「…やはり…聖銀様なのですね。では私も共に行こう。ここしばらく、炎竜の様子がおかしいのは皆が気にしていた。隠すことがないのなら、異存はないなリヴェレッタ殿?」

 するとリヴェレッタ様はしばらく躊躇していたが、やがてこくりと頷いた。

「…いいだろう。そろそろ皆にも知らせねばならぬと思っていたのだ。ではマ・リエ殿。このまま私に乗って、我が領地においで下さい」

 あっあなたに乗るんですね?真竜がユニコーンよりずっと速いことは知っていたけど、ルイがどう言うかな?

「ルイ、リヴェレッタ様に乗って行ってもいい?」

 振り返ってそう聞いてみると、私の後ろにいたルイは難しい顔をしていたが、仕方なさそうに白い頭を縦に振ってくれた。

「イヤだけど…しょうがないだろう。炎竜の領地がどこなのか知らないが、少なくとも首都より遠いだろうし…ユニコーンよりも、竜に乗って行くほうが断然速いからな」

 するとスーリエ様がこう申し出てくれた。

「私の背にも一人だけなら乗せて行けます。ルイ殿とやら、マ・リエ殿を一人で行かせるのも不安ならば、私の背に乗って行かれるとよい」

「えっ本当ですか?それなら…」

「私が!私が行きます!姫様のお世話をするなら、女のほうがいいですし!」

 タニアが大声と共に進み出て来たが、私は首を横に振った。

「ごめんなさい、タニア。気持ちは有難いのだけど、私は一人だけならルイに来て欲しい」

「マ・リエ!」

「ええー…そんなあ…でも姫様がそう仰るのなら…」

 タニアは唇を尖らせたが、私の意見を優先してくれた。

 ありがとう、タニア。

「村長、皆さん。ご迷惑をかけてしまってごめんなさい。そういう訳で、これから炎竜の領地に行って来ます」

 そう頭を下げると、村長が村人たちの輪の中から出てきて私の手を握ってくれた。

「マ・リエ。遠くまで行かなければならないのだね。それがあなたの使命の一つだというのなら仕方ない。気をつけて行っておいで」

「支度をする時間くらいは与えてやれ、リヴェレッタ殿」

「本当は一刻の猶予もないと言いたいのだが…足りぬものはこちらで用意いたしますぞ?」

「女性には色々あるだろう。しかしできれば急いでいただければ助かるのだが、マ・リエ殿」

「わかりました。ルイ、行こう」

「ああ」

 私たちはそれぞれの家に戻り、簡単な身支度をした。竜に乗れそうな外出用の服に着替えて、外出用と屋内用の着替えをカバンに入れる。このカバンはルイの父親のルードが作ってくれたもので、大きくて軽い上に肩から斜め掛けが出来て助かる。

 サラがくれた水筒二つに水を満たして、パンに干し肉を挟んだものをいくつか袋に入れ、一緒にカバンに入れた。

 ルイの分も必要かもしれないし。

 家の外に出ると、既にルイが同じカバンを斜め掛けにして待っていた。

「できたか?」

「ええ。ルイ、水筒は持った?」

「あ、持ってない。着替えだけ詰めてきたから…」

 ふふ、やっぱりね。

「ほら、一つあげるわ。カバンに入れて。簡単な食事は私が持ってるわ」

「ありがとうマ・リエ、助かる」

「それじゃ行きましょう」

 広場へ向かおうとする私を、ルイが呼びとめた。

「マ・リエ」

「なあに?」

「その…オレを選んでくれてありがとう。…嬉しかった」

 なんだ、そんなこと。

「あなたは最初の頃から私といてくれたじゃない。私にとって、とても」

「とても?」

 ルイが私を覗き込んでくる。な、なに?

「とても…頼りになる仲間よ」

「………」

 あら?どうしたのルイ。頭を抱えてしゃがみ込んでしまって…。

 だめよ、急いでいるのよ。

 それに、あなたは私にとって。

「仲間の中でも、一番よ」

 そう付け加えるとルイが顔を上げて私を見たので、ここで小首をかしげて微笑みをひとつ。

「ね?」

 母の介護に追われて男の子とお付き合いもしてこなかった私だけれど、これは正解だったらしい。

 ルイはぱっと顔を赤らめて緑の瞳を潤ませ、勢いよく立ち上がった。

「行こう!」

 そう大きな声で叫んで私の右手を掴み、広場へ向かって走り出す。

「え、ちょっと待って、ルイ…!」

 朝日に照らされた長身のルイの背中は、私が思っていたより大きくて広く、ちょっとドキドキした。

 広場に戻るとリヴェレッタ様とスーリエ様の姿がなく、ダグとタニアに案内されて村の外に出ると、二人は、既に巨大なドラゴン型の竜の姿になって待ってくれていた。

 近くで見ると、本当に大きい。

「マ・リエ殿!」

「お待たせしました、さあ、行きましょう」

 カバンを斜め掛けして、リヴェレッタ様の赤い背中に乗る。ルイはスーリエ様の白金色の背中に。

「あなたに風が当たらぬよう、間違っても落ちぬよう結界を張ります。私のたてがみに掴まっていてください」

「ありがとうございます」

「行くぜスーリエ殿!そっちの用意はいいか!?」

「リヴェレッタ殿は私には普通に話せないのか」

 困ったように笑って、スーリエ様は巨大なコウモリの羽根のような翼を広げた。朝日が赤と白金の真竜の長のウロコに反射して、きらきらと煌めく。とても壮麗だ。

「それでは行って参ります!」

 村の外まで見送りに出てきてくれた村長とサラ、ダグ、タニア、ミシャに手を振って、私は大空高く舞い上がった。(続く)

第42話までお読みいただき、ありがとうございます。

炎竜の領地へと飛び立った鞠絵たちですが…。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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