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第41話。ユニコーンの村で、少しだけ目覚めたナギと話をする鞠絵。ふと見上げると炎竜リヴェレッタが飛んできて、鞠絵を本物の聖銀か確かめようとする。

第41話です。

   ◆ ◆ ◆ 


 世界が割れる。

 助けてと泣く声が響く。

 私は歌い続ける。

 世界を救うために。

 もっと、もっと歌い続けよう。

 そうすればきっと―――。


 何?どういうこと?


 私は夢からさめた。

 知らず、頬を涙が濡らしていた。

 この涙は…どうして、私は泣いているの?

『マ・リエ。目覚めたか』

 ナギ?あなたのほうこそ、起きているの?

『ああ。そなたが今見た夢を共有した。覚えているか?』

 ええ。とても悲しかった。世界が割れてしまう、助けてって誰かが泣いていたわ。

『その声について、話したいことがある。出掛けられるか?』

 話をするのに、誰にも邪魔されたくないのだと言う。ナギの声は切羽詰まっているように聞こえた。確かにまだ朝早いけれど、もう少ししたら誰かが早い朝ごはんを持ってやってくるかもしれない。

 私はタニアを起こさないようにそっとベッドから出て着替え、彼女が起きてきた時のために、少し散歩してくると書いたメモをテーブルに乗せて家の外に出た。

 少し肌寒い、星は消えているがまだ陽が昇ってきていない早朝。キアとケリーに初めて出会ったあの草原に向かい、大きな木の下に座ってナギと話すことにした。

 ナギ。あの夢はなんなの?

『そなたが夢で聞いた声…あれは精霊の声だ。神竜は精霊の声を聞くことがある。精霊は己がいる場所に世界のほころびができると消えてしまうから、助けを求めているのだ』

 精霊の声?それを私とナギは聞いたのね。

『昔は精霊の声を聞いて、ほころびの場所を探していたものだ。つまり精霊の泣き声が聞こえたということは、ほころびがある、もしくはできかけている場所がある…ということなのだ』

 世界のほころびがどこかにできてきているってこと?もしあちこちにできてきたら、この世界は裂けていってしまうんでしょう?

『…危ないことになってきているのは確かだな。あの魔法師どもの杖に嵌められていた石に込められた邪気は、我の知らぬ新しいものであった。つまり、新しいほころびが只人の国に既に出来ている可能性がある、ということだ。我が完全に復活するまで、待っていられぬかもしれぬ。そなたの歌のおかげで、我の傷もだいぶ癒え、こうして起きていられる時間も長くなってきたが…。そなたには今から動いて、世界のほころびに関する情報を集めて欲しい』

 それが、世界を救うことになる?

『そうしたいものだ』

 そう言ったナギは、またうとうとし始めた。

 情報を求めて動く、といってもどうすべきかよね…。

 とりあえず、私が知っている一番権力のある方のところへ行くのがいいのではないかしら。

 となるとトリスラディ様のところね。

 皆や村長さんに断って、ルイに乗せてもらって…と考えていると、朝焼けの空を竜が飛んで行くのが見えた。私が見た水竜とは違ってドラゴン型の、まるで炎のように真っ赤な竜だったが、あちこちが黒ずんでいる。

 その異様な姿に目を奪われているうちに、竜は飛んで行ってしまった。

 あの方向は…ユニコーンの村のほうじゃない!?

 私はあわてて木の下から立ち上がった。陽は昇り、もう皆が働きに出る頃だ。

 村の出入り口まで戻ってくると、なんだか村が騒がしくなっていた。

「マ・リエ!どこに行っていたんだ!?迎えに行ってみたらタニアが散歩に出かけたと言っていたけど、戻ってこないから心配したんだぞ!」

 目ざとく私を見つけたルイとタニアが駆け寄ってくる。

「姫様!今までどちらに?」

「何かあったの?」

 私を探していたってことは、この騒ぎは私に関係していることなんだろうか。

「お前に会わせろって女が村に押しかけて来てるんだ。どうも真竜らしくて力が強くて、手がつけられなくて困ってる」

 三人で中央広場まで行くと、村人や村長に囲まれて見知らぬ女性が立っていて、私を振り返った。

「よう、やっと現れやがったか」

 ごうごうと燃え盛る炎のような熱波が、あちこちに跳ねた真っ赤な長い髪と瞳をした、ぴったりした黒いレギンスの上からショートパンツを穿いた女性から感じ取れて、私は思わず後ずさった。人混みをかき分けて私の傍に来てくれたダグと一緒に、ルイが私を背中にかばい、タニアが私の横に立つ。

 それどころじゃない雰囲気だけど…この人、すごいプロポーション。胸もお尻もすごく大きいし、ウエストはきゅっと締まってるし。

「角がない…青銀色の髪の少女。てめえがマ・リエだな」

「ど…どうしてそれを」

「聖銀竜の名を騙って世を騒がせる娘は放っておけない。ユニコーンども、そこを退けい」

 この人、私が聖銀竜との混じりものだって知っている?

「お…お待ちくだされ。あなた様はどなたなのです?マ・リエに何のご用件があるのです」

 村長が進み出てきて女性に話しかけたが、彼女は聞く耳をもたなかった。

「黙れ。おれは炎竜の領主、リンガル・リヴェレッタだ。ユニコーンごときがおれの邪魔をするな。てめえら、そこを退け」

 やっぱり、真竜なんだ。

 炎竜の長リヴェレッタ様と名乗った女性はその燃える瞳で私を見つめた。その縦長の瞳孔が、すうっと細まる。ごうっ…と彼女の周りに炎が渦巻き、集まった女子供がきゃあっと悲鳴を上げた。

「おれの邪魔をするなら、この村ごと焼いてやってもいいんだぞ。その娘をこちらに寄越せ。今すぐ」

 私はあわててダグとルイの腕に手をかけてかき分けながら、リヴェレッタ様に叫んだ。

「わかりました。私一人でそちらに行きますから、炎を鎮めてください」

「マ・リエ!」

「危険だぞ!」

「姫様、お下がりください!」

「この人は本気よ。村が危ないのに、隠れてなんていられないでしょ」

「出てきたか、この詐欺師めが」

「…あなたは何をそんなに焦っているの。この人たちの誰も、あなたを傷つけていないでしょう?」

「うるせえ詐欺師めが。てめえからは確かに聖銀様の御力を感じるが、どうせ力の籠もった何かを持ってやがるに決まってる。おれは知ってるんだからな!」

「違います。そんなもの、私は持ってないです」

「それじゃあ…てめえが本物だって言うのなら、話に聞く癒しの歌姫、聖銀のマ・リエだと言うのなら、これを治してみせやがれ!」

 リヴェレッタ様は体にぴったりとフィットしている袖を、左腕だけ勢いよく捲り上げて見せた。

 手首から上にはべったりと、ペンキ…というよりタールでも塗りつけたかのように、真っ黒な滲みが肘の上まで続いていた。 

 私の中のナギが目を開く。これは…邪気だ。どうしてかわからないけど、この炎の竜には邪気が滲みついているんだ。

 ユニコーンたちがひっと声を上げて後ずさり、私たちを囲んだ円が大きくなった。

 リヴェレッタ様が馬鹿にしたように笑う。

「どうせ治せないだろうがよ、この偽物が。普段はおれの魔力で抑え込んで見えないようにしてる、この滲みが」 

私はほぼ無意識にその滲みに向かって手を伸ばしていた。そのままリヴェレッタ様の元へ歩み寄って腕に触れると、おー…と声が出る。その声にナギの声が重なって、二重奏になった。

「おお 黒き邪神の配下よ この者を苦しめる悪しき煙よ

 光と共に追い散らされ 浄化されたまえ

 気高き炎にまとわりつく 黒き邪なるものよ

 ただのひとつの欠片も逃さず 我が歌によりて清らかなる魔力となりて この者に還元されよ…!」

 その歌声は広場の隅まで響き渡った。炎竜の長は歌と共に金色に輝き、黒く滲みついた邪気には金色の粉がきらきらとまとわりついて、光と共に消えていった。

 金の光が治まると、真っ黒だったリヴェレッタ様の腕は元の浅黒いなめらかな肌を取り戻していた。それを見た彼女は驚き、右腕もまくって見て、それから両脚のレギンスもまくって見て、そして最後にショートパンツからシャツをまくり上げてお腹まで見ていた。ち、ちょっとそれは、目の毒だからやめて欲しいんですけど…。

 リヴェレッタ様はぽかんと口を開けて私を見て、それから数度深呼吸をし、ゆっくりとまくり上げていたシャツを戻した。

「本当に…邪気が。…浄化された…マジか」

 しばらくの間、穴が開きそうなほど私を凝視したリヴェレッタ様は、真っ赤な瞳を潤ませてずずっと鼻をすすった。

「聖銀様…聖銀様なのか、本当に?」

 え、今ので信じてくれたかな?

 そう思う間もなく、リヴェレッタ様はべたりとその場に座り込んで、私の足元で頭を下げ平たくなった。

 あれ…この光景、前にも見たよね?水竜の砦で。

 彼女は土に額を擦りつけんばかりにしながら号泣し始めたので、私はあわててしゃがみ込んで彼女の背をさすった。(続く)

第41話までお読みいただき、ありがとうございます。

リヴェレッタ様は納得してくれたみたいですね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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