第352話。子竜を助けるために歌えば歌うほど、子竜を傷つけると知って、戸惑うマ・リエ。そんな彼女に、ナギが子竜を救う方法が一つだけある、と言う。その方法とは…。
第352話です。
『あの邪気はある程度削られると、魂を傷つけて、その苦しみや痛みを糧として力を取り戻そうとするだろう。それを繰り返せば、あの子竜の魂は壊れてしまう。邪気がある場所が、魂の中心でさえなければ、なんとかなったかもしれないが』
辛そうなナギの言葉に、私は思わず、両手で顔を覆った。
「そんな…そんなこと…」
そう呟いて、そのまま私は絶句した。
今まで歌うことで何とかなってきたことが、今は無理だとナギは言うのだ。それどころか、歌えば歌うほど、この子を苦しめるのだと。
両手の中で、私は血が出るほど唇を噛み締めた。
悔しい。
何もできない、無力な自分が。
本当に、この子に何もしてあげられないの?
ナギを乗っ取るためにこの子を利用したあの人は、どこまでこの子を苦しめるの?
「聖銀様」
呼びかけられ、私ははっとして顔を上げた。
そこには気絶した己が子どもを抱き締める、両親の竜の姿があった。
彼らの瞳は希望を失わず、必死な光に輝いていた。
「聖銀様…どうか…どうかこの子を、お救いください」
気が付けば、両親の竜もリヴェレッタ様も、ほかの炎竜たちも皆、私に向かって膝まづき、祈るように声を揃えていた。
ああ…そうだ、私は聖銀のマ・リエ。
この竜たちにとって、私だけが希望の光なのだ。
でも…歌ってもこの子を苦しめるだけならば、もう私にできることは何も…。
なにもない?
本当に?
ああ、ナギ、ナギ。
「ねえ…本当に、どうしようもないの? 私の力で、この子を助ける方法はないの?」
するとしばらくの間をおいて、ナギの返答があった。
それは、とても言いにくそうに。
『ひとつ…だけ…ある。だが…』
私はその言葉に飛びついた。
「教えて! どうしたらいいの? 私にできることなら、何でもするから!」
そう叫ぶ私に、ナギは答えない。
すがるように、私は幾度も呟いた。
「お願い。お願い、ナギ。教えて」
すると、ようやくナギが口を開いた。
『この子竜を…我らの眷属に、するのだ』
「えっ?」
けん、ぞく?
意味がわからなくて聞き返す私に、ナギがようやくくれた、答えは。
『我らの血を…力を分け与えて、聖銀の眷属とするのだ。このくらいの邪気であれば、聖銀の神気が直接肉体や魂に入れば、暴れ出す前に溶けて消える。多少魂が傷ついたとしても、神気がその傷を癒すだろう』
そんな方法があったなんて。
私はようやく見つけた希望の光に意気込んだ。(続く)
第352話までお読みいただき、ありがとうございます。
子竜を助ける方法を見つけたマ・リエは、どうするのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




