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353/355

第352話。歌をナギに制され、子竜の魂を見るように言われたマ・リエは、そこに太い邪気のトゲを見る。歌だけではダメだったのかと、子竜を助ける方法をナギに聞くマ・リエだったが…。

第352話です。

「どうして止めるの? ナギ。あんなに苦しんでいるのよ、早くもう一度浄化しないと…」

 焦る私に、静かな声でナギが言った。

『落ち着け、マ・リエ。よく見るのだ。あの子竜の、魂を』

 魂を?

 ナギの言葉には、いつでも意味があった。

 あんなに転げまわっていたリオネルは、あまりの苦しみに耐えきれなかったのだろう、気絶してしまっていた。

 だから私は、できるだけ心を落ち着けると、リオネルの魂を覗き込んだ。

 そして…その魂の中に、あるものを見つけた。

 それは。

 それは、とんでもないものだった。

 私が今握っている杖についている魔石の中に封じ込まれていた魂…本当のディガリアス皇帝の中に打ち込まれていたのと同じ、邪気のトゲだった。

 いいえ、リオネルの中にあるのは、それよりもっとずっと太い、まるで杭のような邪気のかたまりだった。それが、根のような触手を、リオネルの魂の中に食い込ませているではないか。

 それを見た私は、己の喉がひゅっ、という短い呼吸音を出すのを聞いた。

「ど…どうして? どうして? 歌だけじゃ、ダメだったの?」

 私は髪をかきむしって、かすれた声で叫んだ。

 こんなことは初めてで…どうしたらいいのかわからない。

 だって今まで、歌って成果が出なかったことはなかったんだもの。

 なんで? どうして?

 私の中で、その言葉だけがぐるぐる回る。

 歌ってもダメなら、この子をどうしてあげたらいいっていうの?

 そんな私に、ナギが囁きかける。

『あの邪気は、子竜の魂の中心近くで、子竜の負の感情を盾にして、そなたの浄化をまぬがれたのだろう。どんな生き物にも、負の感情というものは必ずあるからな』

「なんてこと…そうだったのね…」

 私の歌にも、できないことがあったなんて。

 私は今更ながらに、奢っていた己を反省した。

 そして、ナユのウロコが砕けたときのことを、胸の痛みとともに思い出した。心が焼かれるような、胸が押しつぶされそうな痛みを。

 まして、この子…リオネルは、百年も邪気の中で苦しんだのだ。この子自体に悪意はなくても、どれだけその心に負の感情を抱えていたことか。

『邪気が肉体を汚染しただけならば…いや、たとえ魂が汚染されていても、あんなに凝縮して、魂の中心に近いところになければ、そなたの歌で浄化できただろう』

 ナギの声が、悲しげに揺れる。

「私の歌では…あの子を助けられないの? ナギ」

 私も悲しくなって、そう聞いてみた。

 どうにかして、リオネルを助けたい。

 そのために私にできることがあるのなら、何だってするつもりだった。

『邪気を小さくはできるかもしれない。だが、完全に消すことはできないだろうな』

 ナギの答えは、残酷なものだった。(続く)

第352話までお読みいただき、ありがとうございます。

どうにかして、子竜を助けることはできないのでしょうか。

また次のお話もお読みいただけたら嬉しいです。

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