第352話。歌をナギに制され、子竜の魂を見るように言われたマ・リエは、そこに太い邪気のトゲを見る。歌だけではダメだったのかと、子竜を助ける方法をナギに聞くマ・リエだったが…。
第352話です。
「どうして止めるの? ナギ。あんなに苦しんでいるのよ、早くもう一度浄化しないと…」
焦る私に、静かな声でナギが言った。
『落ち着け、マ・リエ。よく見るのだ。あの子竜の、魂を』
魂を?
ナギの言葉には、いつでも意味があった。
あんなに転げまわっていたリオネルは、あまりの苦しみに耐えきれなかったのだろう、気絶してしまっていた。
だから私は、できるだけ心を落ち着けると、リオネルの魂を覗き込んだ。
そして…その魂の中に、あるものを見つけた。
それは。
それは、とんでもないものだった。
私が今握っている杖についている魔石の中に封じ込まれていた魂…本当のディガリアス皇帝の中に打ち込まれていたのと同じ、邪気のトゲだった。
いいえ、リオネルの中にあるのは、それよりもっとずっと太い、まるで杭のような邪気のかたまりだった。それが、根のような触手を、リオネルの魂の中に食い込ませているではないか。
それを見た私は、己の喉がひゅっ、という短い呼吸音を出すのを聞いた。
「ど…どうして? どうして? 歌だけじゃ、ダメだったの?」
私は髪をかきむしって、かすれた声で叫んだ。
こんなことは初めてで…どうしたらいいのかわからない。
だって今まで、歌って成果が出なかったことはなかったんだもの。
なんで? どうして?
私の中で、その言葉だけがぐるぐる回る。
歌ってもダメなら、この子をどうしてあげたらいいっていうの?
そんな私に、ナギが囁きかける。
『あの邪気は、子竜の魂の中心近くで、子竜の負の感情を盾にして、そなたの浄化をまぬがれたのだろう。どんな生き物にも、負の感情というものは必ずあるからな』
「なんてこと…そうだったのね…」
私の歌にも、できないことがあったなんて。
私は今更ながらに、奢っていた己を反省した。
そして、ナユのウロコが砕けたときのことを、胸の痛みとともに思い出した。心が焼かれるような、胸が押しつぶされそうな痛みを。
まして、この子…リオネルは、百年も邪気の中で苦しんだのだ。この子自体に悪意はなくても、どれだけその心に負の感情を抱えていたことか。
『邪気が肉体を汚染しただけならば…いや、たとえ魂が汚染されていても、あんなに凝縮して、魂の中心に近いところになければ、そなたの歌で浄化できただろう』
ナギの声が、悲しげに揺れる。
「私の歌では…あの子を助けられないの? ナギ」
私も悲しくなって、そう聞いてみた。
どうにかして、リオネルを助けたい。
そのために私にできることがあるのなら、何だってするつもりだった。
『邪気を小さくはできるかもしれない。だが、完全に消すことはできないだろうな』
ナギの答えは、残酷なものだった。(続く)
第352話までお読みいただき、ありがとうございます。
どうにかして、子竜を助けることはできないのでしょうか。
また次のお話もお読みいただけたら嬉しいです。




