第351話。「この子はオレたち炎竜の自慢の仲間である…!」リヴェレッタがそう宣言したとき、突然子竜が苦しみだした。邪気を再び取り除くため、もう一度歌おうとしたマ・リエをナギが制し…。
第351話です。
「今日、やっと群れに戻ってきた子を…仲間を美しいと、聖銀様は言ってくださった。この子は百年も邪気の中で生き抜き戦ってきた、立派な炎竜だ。この姿はその戦いの証だと…美しいと、誉めてくださった」
リヴェレッタ様が胸を張る。
「仲間たちよ。この子は、オレたち炎竜の、自慢の仲間である…!」
わあっ…と、炎竜たちが一斉に声を上げた。その咆哮は彼方まで響いていった。
親子の瞳にも、リヴェレッタ様や炎竜たちの瞳にも、一様に涙が光っていた。
「さあ、おいでリオネル。皆に紹介しよう」
リヴェレッタ様が子竜に向かって手を差しのべる。
子竜がおずおずと、それでもその手を取ろうとしたときだった。
「あっ…!」
突然、子竜が叫び声を上げ、身をよじったではないか。
「グッ…グオオオ…ッ!」
子竜は叫びながら地面に倒れ、転げまわった。
えっ、ど、どうしたの?
これで私の成すべきことも終わったと、すっかり安心していた私は、驚いてただ、もがきまわる子竜を見つめることしかできなかった。
何が、何が起こったの?
「アア…ッ! グウゥ…ッ!」
とても苦しそうに、子竜…リオネルは胸の辺りを押さえて呻き続ける。
「リオネル!」
「ど、どうしたんだ?」
両親はあわててリオネルの傍に寄ってきた。
「いた…い、痛い…いたいいぃ…ウ、ウォオォ…!」
えっ?
彼が押さえている胸の辺りを覗き込んだ私は、思わず息をのんだ。
リオネルの胸に、青黒いしみがあるではないか。
それはまるで、水にインクを流したように、もやのように、広がり始めていた。
こ…これは。
「邪気?」
私の言葉に、炎竜たち全員が私を見た。
「そ…そんな! どうして? さっき、浄化したのに…!」
リヴェレッタ様を始め、リオネルに歩み寄って来ていた炎竜たちは驚いて、後ずさり始めた。
両親だけが、リオネルを抱き締めた。
「しっかりして、リオネル」
「聖銀様…!」
父竜が、必死の形相で私を見た。
「どうか、どうか今一度、息子をお救いください…!」
父竜のすがるような瞳に、私は頷いた。
そう、そうよね。もう一度歌えばきっと…。
しかし、私が歌おうと息を吸い込んだとき、私の中のナギが声をかけてきた。
『待て、マ・リエ』
えっ? (続く)
第351話までお読みいただき、ありがとうございます。
なぜナギはマ・リエを止めたのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




