第350話。己の姿を醜いと嘆く子竜に対し、マ・リエは決してそんなことはない、あなたは美しいと告げる。マ・リエがそう言った理由は何なのか。そして炎竜の長が声を上げる。
第350話です。
私は子竜をもう一度見つめた。その姿は、哀れまれるようなものには、私には見えなかった。
確かに、普通の炎竜の姿とは大きく違う。
でも。
私は三頭の竜の傍に歩み寄り、まっすぐに子竜の顔を見た。
その瞳は、再び悲しみに満たされそうになっている。
「とても、綺麗な姿よ」
私はただ、思ったことを口に出して言った。子竜の瞳がぱちぱちと、幾度も瞬きをする。
「え…?」
「本当に、綺麗よ。普通の炎竜の姿とは違うけれど、あなたのその姿はとても綺麗」
「き…れい?」
「ええ、そうよ」
不安そうな子竜に、私は微笑んでみせた。
ごめんなさい、普通の炎竜の姿に戻してあげられなくて。
でもあなたの今の姿は、私にはとても美しく見えるの。
それは本当よ。
私の言葉に炎竜たちは言葉を失い、周囲はしん、と静まり返った。
両親の竜たちは、まだ涙のあふれる瞳をじっと私に据える。
私の言葉を、待っているのだわ。
だから私は、感じたことをそのまま話した。
「百年も邪気の中にいて、誰も助けてくれなくて…ひどい扱いを受けていたのに、心がねじれて魂が歪んでしまってもしかたがなかったのに、あなたの魂は少しも歪んでいない。それはきっと、あなたの中の炎が、邪気から魂を守っていたから。体を赤く染めるはずの炎を使い切ってまで、邪気と戦ったのね」
炎竜たちだけでなく、周囲の者たちは一様に、静かに私の話を聞いていた。
「だから…その姿は戦いの証。誰にでもできることではなかった、あなたの戦いの証。とても…とても、美しいわ」
微笑む私に、子竜と両親が息をのむ。
泣いてしまえば、この子の百年間を哀れむような気がして、涙は出なかった。
もう、この子の体に紅色は戻らないだろう。この子はこの体で、生きていかなければならない。
それならば。
その気高い魂を…まっすぐな心を守ったその体を、せめて誇りに思って欲しかった。
同情は、侮辱と同じに私には思えたのだ。
この子は目覚めてから、何ひとつ他者を責めなかった。誰にも傷つける言葉を向けなかった。その心はひたすらに、まっすぐで美しい。
ムラだらけの、濁った白と桃色でも、その心と体は精一杯生きるすべての生き物と同じように美しい。
この子の痛みや苦しみ、悲しさと寂しさを思いやり、胸を痛めるのは、これからこの子の傍で生きる両親や仲間たちだ。傍で支え、寄り添い、助けることは、これから彼らができることなのだ。
私は傍にはいられない…支え続けることはできない。
だから、せめて誉め称えよう。
「あなたは、美しい」
…と。
その時、リヴェレッタ様が顔を上げると、炎竜たちを振り返って声を張り上げた。
「仲間たちよ。聖銀様のお言葉を、しかと聞いたか?」
炎竜たちも、三頭の親子もリヴェレッタ様を見つめる。(続く)
第350話までお読みいただき、ありがとうございます。
リヴェレッタは一体何を言おうとしているのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




