第347話。子竜リオネルは、産まれて初めて食べて美味しい、ということの意味を知る。それを嬉しい、と感じた彼は、この美味しい竜の木の実を両親もともに食べようと言いだし…。
第347話です。
「美味しい、っていうのはね。食べて嬉しい、っていうことなのよ」
「たべたら…うれしい」
「そうよ。これ、いい匂いがするでしょう。食べてごらんなさい」
「たべ…る」
リオネルは眉を寄せ、少しおののいた。
今までよほどまずいものしか、食べてこなかったのだろう。
私はこの子に、美味しくて嬉しい、ということを教えてあげたい。
「そうよ。さあ」
二つに割った実の片方を差し出すと、リオネルはまたふんふん、とその実の香りを嗅ぎ、おずおずと口を寄せて、外側の硬い部分をそっと噛んだ。
木の実の内側はとろりとしていかにも美味しそうなのに、きっとこの子はどろりとしたまずいものばかり食べていたのだわ。
「ん、んっ…?」
けれど彼がかじったところにも、皮が薄い木の実の内側の部分があったのだろう。リオネルは目をぱちぱち、と瞬かせて、首を傾げた。
「ほら、美味しいでしょう。このとろりとしたところ、食べてごらんなさい」
「おい…し、い…」
まだ合点がいかないふうに、子竜は呟く。それでも子竜らしく、興味が勝ったのだろう。私の言った通りに、中心の柔らかい部分を、先程よりは大きくぱくり、と食んでいった。
「ん、んんっ? んー」
ぴょん、と飛び上がった子竜は、やがて満面の笑みになった。
黒く染まってはいても、子どもの笑顔はとても可愛らしいものだ。
「おいしい! これ、これがおいしい?」
「そうよ。ほら、これは全部あなたのものよ。食べていいのよ」
半分に割った木の実を両手で差し出すと、リオネルは目を輝かせ、今度は迷いなく中心へとかぶりついた。
ぱくぱくと嬉しそうに食べる我が子を、両親が嬉しそうな瞳で見つめている。
「おいし、おいちい」
「そうね。美味しいわね」
「よかったなあ、リオネル。これは竜の大好物の木の実で、なかなか手に入らないんだぞ? たくさんお食べ」
しかしそれを聞いた子竜は、両親を見上げてこう言ったのだ。
「えっ…と…おじ…と、と、う」
「とうさん、だぞ?」
「うっ…うん。と、とう、さん」
「ああ、そうだよリオネル。なんだい?」
「とうさんと、か…かあさん、も、これ食べて」
「えっ?」
「いや、私たちはいいのだよ。お前が一人で…」
「たべて」
「リオネル?」
「こんなにおいしいんだもん。みんなで食べたい」
ああ…なんて、優しい子なのかしら。(続く)
第347話までお読みいただき、ありがとうございます。
リオネルの願いを両親はかなえてやるのでしょうか。
また次のお話もお読みいただけたら嬉しいです。




