第342話。邪竜と暗黒神竜エレサーレの戦いを見つめていたマ・リエが見たものは、小さな人影だった。エレサーレはそれを…。そして操る者を失った、邪竜のもととなっていた竜は地面に落ちていき…。
第342話です。
その時、息をのんで見つめるマ・リエの目に、それは映った。
邪気をまとい、本体のはっきりしない邪竜の中に、深々と顔をうずめて噛みついているエレサーレの口元に、小さな黒い人影があったのだ。
その人影は、ボサボサの髪をした、やせ細った子どものようにマ・リエには見えた。
枯れ枝のような両手両足をバタバタと振り回してもがいていたが、エレサーレはその口に子どもをくわえると空中に放り投げ、そのままぱくり、と飲み込んでしまった。
マ・リエは思わず、あっ、と声を上げた。
「のっ…飲み込んじゃったの? 子どもよ、まだ小さな子どもなのに…!」
背中の翼をはためかせ、思わずエレサーレのもとに飛んでいこうとするマ・リエを、彼女の中のナギが止めた。
『待て、マ・リエ。あれは本来の皇帝の魂を乗っ取っていた者の魂だ。肉体はない』
「そっ…そうなの?」
『うむ。エレサーレはあの者の魂を、自らの中に取り込んで、閉じ込めたのだろう』
「えっ、それは大丈夫なの? エレサーレが乗っ取られたりしたら…」
空中に留まりはしたが、焦るマ・リエにナギが続けて言う。
『エレサーレは、多くの魂が集まって構成されている神竜だ。今取り込んだ者の魂が、たとえ少しの魂を乗っ取ったとしても、ほかの大多数の魂がその者を抑えて無力化するだろう。エレサーレもそれをわかってやったのだ。だから大丈夫だ、心配するな』
「そ…そうなのね、それなら…」
少しほっとしたマ・リエが改めてエレサーレのほうを見ると、邪竜に変化が起きていた。
「あ、あれは…」
邪竜の周りを覆っていた邪気が、その中心となっていた魂を失ったために制御できなくなり、四方八方に黒い煙となって散っていくではないか。
そして、散っていく邪気の中から、さっきより更に小さな一体の黒い真竜が現れた。
竜は意識がないようだ。ぐったりしたまま、地面へと落ちていく。
「マ・リエ、竜が…!」
ルイが叫んであわてて向かったが、とても間に合いそうになかった。竜が地面に激突しそうになったその時、大地から二筋の赤い色が竜に向かい、触れると同時に竜を空中に持ち上げた。
そして帝都の外の丘陵地に向けて、運んでいった。
そこに待っていたのは、鮮やかな赤い竜たちだった。
「あれは…炎竜?」
『そうだな』
「いつの間に近くまで来ていたんだ」
ルイがほっとしたように足を止めた。
「私たちも行きましょう」
「うん」
マ・リエとルイは、運ばれていった竜を追って、草と低い立ち木しかない丘陵地へと下りていった。
◆ ◆ ◆
「マ・リエ、あそこだ」
「ええ、そうね」
私とルイは、二つの赤い光によって運ばれて行った竜の近くに下り立った。(続く)
第342話までお読みいただき、ありがとうございます。
運ばれていった竜はどうなるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




