第341話。石の中に黒いトゲによって封じ込まれていた、本来の皇帝ディガリアスの魂。マ・リエは歌によって、彼の魂を浄化する。そのとき邪竜は暗黒神竜エレサーレによって動きを封じられ…。
第341話です。
今までどれだけ、辛かっただろうか。
それを思うと、マ・リエの口から自然に歌が漏れ出てきた。
「石よ…力もつ、きらめく石よ…
そなたのなかに在るのは、かわいそうなひと
あなたに閉じ込められた、罪のないひと
あなたのなかにはトゲがある
それはあなたにとって、辛くて苦しいことでしょう
そのトゲもちて、罪のない人を刺していることは
あなたの想いではないでしょう
力もつ、きらめく石よ
ああどうか、この歌とあなたの力もちて
トゲを消し去り、罪なき人を開放して…」
石がふうわりと輝き始め、やがてその中が明るく輝き出した。
マ・リエの歌と共に、石の中にある黒いトゲが、細かい黒い粒子となって崩れた。その黒い粒子は石の中から出てくると、吸い込まれるように邪竜に向かって飛んでいく。
「邪竜に戻っていくのね」
『アリ…ガトウ、ムスメ…ヨ』
石の中から聞こえる声は、ひどく安堵した様子でマ・リエに語り掛けた。
『コレ、デ…ヤット…ヤスラカニ、ネムレ、ル…』
「ええ、おやすみなさい、ディガリアス。もう何も、苦しむことはないのよ」
『アリ…ガト…』
ディガリアスの魂は、最後にそう言い残すと、もう何も言わなくなった。
きっと、安らかに眠ったのだろう。
その魂がマ・リエに触れていったとき、彼の想いがマ・リエに伝わってきた。
皇帝などにはなりたくなかったこと。
本をたくさん読んで、学者になりたかったこと。
ただ静かに、好きな学問をして暮らしたかったこと。
「きっと生まれ変わって、そんな暮らしができるわ。…おやすみなさい…」
ディガリアスが消え去ると同時に、鎖についていたヴァレリアの力が封じられていた魔石がその力を放出する。そして、金の鎖とともに、空に溶けるように消えていった。
開放されたヴァレリアの力は、幾筋もの黄金の光となって、ヴァレリアのもとへと還ってゆく。
マ・リエの手の中に残されたのは、先端にヴァレリアのウロコと、空っぽになった魔石のついた杖だけだった。
ヴァレリアのいる丘に向かって戻っていく黄金の光を見送っていたマ・リエに、ルイが叫ぶ。
「マ・リエ、見ろ! エレサーレが…!」
その言葉に驚いて、マ・リエが邪竜とエレサーレのほうを見ると、そこには急速に竜の形をとりつつある黒い煙…エレサーレと、すっかり縮んでしまった邪竜がいた。
邪竜とは対照的に、見る間に大きな竜となったエレサーレは、逃げようとする邪竜を簡単に捕まえて、がぶりと噛みついた。
「ギュアアア…」
悲鳴を上げて必死でエレサーレから逃れようともがく邪竜だったが、それはかなわなかった。再び竜の姿となったエレサーレは、逆に縮んでしまった邪竜よりも、一回りほども大きくなっていたため、力では到底逃れられなかったのだ。
それでもエレサーレに噛みつき返し、尾で殴りつけては、必死で抵抗する邪竜。
だがエレサーレにはどの攻撃も一向にダメージとはならず、がっちりと邪竜を捕らえて幾度も噛みつき振り回した。(続く)
第341話までお読みいただき、ありがとうございます。
邪竜はどうなってしまうのでしょうか。
また次のお話もお読みいただけたら嬉しいです。




