第339話。エレサーレの姿が消えたことに動揺するマ・リエに、彼女の中の聖銀竜ナギが大丈夫だと語り掛ける。その意味とは。そしてマ・リエが見た、邪竜を押し包む黒いすすの正体は…。
第339話です。
自らの手を邪気で真っ黒に染めながら、それでも杖を離さず飛び回るマ・リエが半泣きになるのを、ナギがなだめる。
『よいか、もともと闇竜としてのエレサーレに、肉体はないのだ』
その言葉に、マ・リエが顔を上げる。
「えっ…?」
自分の言葉が彼女に届いたことに安堵して、ナギは続けた。
『魂が、神気を使って邪気をまとったのが、エレサーレの姿なのだ。今の攻撃は、ヴァレリアの力を使った鎖の石で、邪気もろとも魂を痛めつけられていたのとは、ダメージが違う』
「だ…だけど、さっきは邪竜の攻撃を受けても全然平気だったのよ? それが、あんなふうに、砕け散るだなんて…」
ナギは根気強くマ・リエに語り続けた。
『神金竜の力で痛めつけられて、体を構成していた結束が弱くなったのであろうな。大丈夫だ。闇竜はエレサーレだけではなく、失われし王国の土地でそなたが開放し、救った数多くの魂たちが集まって産まれた神竜だ。ヴァレリアもそう言っていたではないか。そう簡単にやられはしない』
ナギは静かにそう言った。
『そら、見てみろマ・リエ』
「えっ?」
半泣きで飛びながらも、そう言われてマ・リエは振り返った。
その彼女が見たものは。
砕けて黒い煙のようになった、もとは暗黒神竜だったものが、皇帝を内包した邪竜を押し包んでいるところだった。
小さな円陣となった黒い煙は、その円陣がたくさん邪竜を押し包んでいる。そしてその円陣は、それぞれぐるぐると回っていた。
キュアアアア…と、邪竜は叫びながら黒い煙やすすを振り払う仕草をした。
同じ邪気でも、何か影響があるのだろうか。もう、マ・リエを追ってくることはなかった。
邪竜から離れて杖を握り締めながら、マ・リエがよく見ると、邪竜を押し包むすすの一粒一粒が、小さな人型をしているではないか。
顔もわからぬ、竜の翼を持った小さな小さな、真っ黒な人型の影。
それは黒い妖精のようにも見えた。
さらによく見れば、その人型は男性の形をしているものも、女性の姿をしているものもいた。彼らは剣や槍、盾を持つものもいたが、多くは素手で邪竜に掴みかかっている。
ほんの一握りではあったが、馬や犬など、動物の姿をしているものもいる。
それはさながら、巨大なゾウに群がるアリの大軍のようであった。
「あっ…邪竜が…」
マ・リエが声を上げた。影にまとわりつかれる邪竜の輪郭が、少しずつ崩れ始めているのだ。
「あのすすは…あいつの邪気を食っているんじゃないか?」
いつの間にかマ・リエの傍にやってきていた、ヴァレリアの黄金の翼を持つユニコーン・ルイが、金の石のついた鎖をくわえた口の端で呟いた。
ルイにはマ・リエと違い、すすがただの細かい粒子のように見えているようだった。
その時。(続く)
第339話までお読みいただき、ありがとうございます。
エレサーレはどうなってしまうのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




