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第335話。もとは底辺の奴隷であったアトラス帝国皇帝は、魂を他人に乗り移らせることで次々と上位の貴族へとのぼり詰めていった。やがて皇帝となった彼が、さらに望んだこととは…。

第335話です。

次の瞬間、彼は自分が血にまみれて転がるのを、少年の中から見ていた。

 彼のギフト、魂渡りが発動したのだ。

 すぐに少年の魂が彼の魂を肉体から押し出そうとするのが感じ取れた。

 だが、押し出されてしまえば、彼は絶命した肉体に戻されてしまう。彼は少年の魂に必死にしがみついた。

 死にたくない…死にたくない。

 懸命にしがみつく彼の邪気に染まった魂から、触手のようなものが伸びて、少年の魂に絡みつき、縛りあげる。触手は少年の魂を突きさし、その力を吸い取り、体とのつながりを断った。

 そうして彼は、少年の肉体を乗っ取り、高位貴族の少年に成り代わったのだ。

 知識や記憶は少年の魂からくみ上げることができたため、中身が入れ替わっているとは誰にも疑われることはなかった。少しばかり性格が変わったくらいにしか思われなかったのだ。

 彼は高位貴族の子息として、その生活を覚え、マナーを学び、貴族たちの力関係を知り、宮廷内での駆け引きや馬術、剣術といったものも身に着けていった。

 そしてそれから…あの夜、彼を傷つけ追い詰めた男たちを、一人ずつ確実に、死や失脚へと追いやっていった。

 数年かけて、男たちのほとんどはそうして報いを受けていった。復讐を遂げた頃、彼は更に上位の貴族へと、乗り移っていった。

 まだだ、まだ上がある。

 彼はもう二度と、上位の者の気分で命を左右されたくはなかったのだ。

 それまで憑りついていた少年の魂から、ほとんどの力と生命力を奪い、乗り移るための力とした。少年の魂と肉体とのつながりをズタズタにして、彼がいなくなった後でも少年が誰かに何かを伝えたりできないようにしていった。

 新しい体を探し出した彼の魂が乗り移っていった数日後、少年は水すら飲めなくなって、衰弱して死んでいった。

 そうやって彼は、次々と更に上位の存在へと魂を乗り移らせていき、やがてアトラス帝国の皇帝にまでのぼり詰めたのだ。

 皇帝になってからは、何もかも彼の思い通りになった。

 地位を狙う者や、他国からの暗殺の恐れこそあったが、周囲に隷属紋を打った者を置いて守らせることとした。その者たちは命をかけて、彼を守ったからである。

 万が一死に至ることがあったとしても、すぐに近くの男の中に乗り移り、再び皇帝の地位を継ぐ者の中に入り込めば良かった。

 そうやって彼は、数百年もの間、アトラス帝国を支配し続けたのだ。

 だが、魂を侵食している邪気は、彼に安寧をもたらすことを許さなかった。

 負の感情を常に増幅し、時には魂が入り込んでいる肉体に痛みや苦しみをもたらし、ひんぱんに悪夢にうなされる。密かにのたうち回り、豪奢で広い部屋の中で一人、悲鳴を上げることもあった。

 次第に彼は、寿命の短いもろい人間の肉体よりも、はるかに強い存在を求め、望むようになった。

 それは竜の体であった。それも、最も高位の存在である神竜の体を得ることを、切望するようになったのだ。

 そうすれば、この苦しみがやわらぐと思って。

 だから、その足がかりとして真竜である炎竜のタマゴを盗ませ、産まれた子竜を邪気の中に沈めてその魂を弱らせて、乗っ取りやすくした。

 真竜を乗っ取り、それを踏み台として神竜を乗っ取ってしまえば、世界中で彼をどうにかできる存在など、どこにもいなくなるはずだった。

 調べてみると、神竜の中では、聖銀竜を乗っ取るのがいいことがわかった。

 神金竜は邪気を消滅させる力を持っているから、邪気に汚染された魂では、あっという間に焼き尽くされて消えてしまうことだろう。

 黒鋼竜は体内結界を持っていて、体内に邪気が入った瞬間に封じて閉じ込めることができる。かつてはそうやって、神金竜の元まで邪気を運ぶこともあったらしい。ということは、彼の魂もまた、封じられてしまうことになる。

 聖銀竜は、邪気を浄化する力を持ってはいるが、それは彼の魂を傷つけることはない。邪気を失う前に聖銀竜に入り込んでしまえば、乗っ取ることは可能だ。

 つまり、神竜の中で乗っ取れるのは聖銀竜のみ、ということになる。

 しかし彼のいた時代には、聖銀竜は存在していなかった。

 それがどうだ。ここにきて、あちこちにあった予言通りに、聖銀竜が現れたではないか。

 しかも、彼が乗っ取ることのできる男という性別で。

 彼は喜び、実行に移すこととした。

 ここまではうまくいっていた。

 あと、もう一息だった。

 そう…あの小娘さえ、いなければ。(続く)

第335話までお読みいただき、ありがとうございます。

皇帝はこうやって次々とのぼりつめてきたのですね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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