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第333話。アトラス帝国皇帝は、己の幼いころの境遇を思い出す。彼のギフトである、魂わたりを得たころのことも。ずっと彼を守っていた彼の母親は、ある日、突然いなくなり、そして…。

第333話です。

 その邪気溜まりはゆっくりと時間をかけて、生命なき有機物を分解して消し去っていたため、その当時ゴミ捨てにはちょうどいいと思われていたのであった。

 ただ、ゴミを捨てるためには邪気の充満している地下洞窟のかなり奥まで行かねばならない。

 つまり、ゴミ捨てをする者は確実に邪気に汚染されることとなる。

 となると、この役につく者は長くて数年しか命がもたないため、使い捨ててもかまわない者が選ばれていたというわけだ。

 彼の母は、邪気に対する耐性が他より優れていたのか、あるいは子どもを育てたい一心からか、体中に邪気に汚染された証の黒いシミを浮かべながら、それでも十年近くも持ちこたえた。

 渡されたゴミの中からかろうじて食べられそうなものを漁り、邪気の汚染を恐れてゴミを渡す以外は誰も近寄らない、隙間風だらけのほったて小屋の、腐ったわらの中で眠るみじめな環境ではあったが、彼の母は精一杯彼を慈しみ、でき得る限り愛情を注いで育てた。

 だから彼は、たとえ名前すらつけられていなくとも、それでも幸せだったのだ。


 そのギフトが、彼に目覚めるまでは。


 魂わたり…それが、天から彼に与えられたギフトだった。 

 彼が五~六歳になった頃、彼は裏庭から出て他の奴隷たちの住む長屋のある場所まで出ていった。好奇心が優り、遊んでいるうちに母から出てはいけないと言われていた境界線を越えてしまったのだ。

 そして、すぐに他の大人の男の奴隷に見つかり、どこから来たのか知られた途端に殴り飛ばされた。

「ゴミ捨て女の子どもだと? けがらわしい!」

「二度と出てくるんどゃねえ! このゴミ虫が!」

 邪気を恐れる男たちはそう口々にわめいて彼を殴り、蹴り飛ばしたが、そのとき不思議なことが起こった。

 彼は暴力にさらされる己の姿を、別の誰かの視線で見ていたのだ。

 それは最初に彼を殴った男だったが、彼は自分の魂がその男の中に入っていることに気づかず、次に気づいたときにはまた暴力を受ける己の中に戻っていた。そして、彼の上に覆い被さって、彼の代わりに暴力を受けながら、必死に男たちに謝る母に気がついた。

 母の体の黒い邪気の斑点を見た男たちは、逃げるように去っていった。

 その後、彼は己の力に目覚め、こっそりと他人に近づいてはその力を試した。

 その結果、男であれば己の魂を移すことができるとわかったのだ。しかも、移された相手はそれに気づくことはなかった。

 だが、長く他人の体に居座ることはできなかった。その体本来の魂に、押し戻されてしまうのだ。

 それでも彼は、その短い時間でその体の持ち主の持っている記憶の一部を持ち帰ると、新しい知識に夢中になった。

 何ひとつ教えられることもなかった彼は、次々と男たちに魂を移しては、無我夢中で知識を吸収していったのだ。

 そんなことを繰り返しているうちに、彼は己の置かれている環境のひどさに気がつく。けれどどうにもならぬとあきらめていたところ、ある日母親が帰ってこなくなった。

 彼は母親の仕事を引き継ぐことになったが、その最初の仕事が死んだ人間を邪気溜まりに捨ててくることだった。

 それは、彼の母親だった。

 彼は泣き叫び、母親を埋葬したいと申し出たが、底辺の奴隷の希望を聞いてくれる者などいるわけがない。

 産まれたときにすでに隷属紋を打たれていた彼は、奴隷頭に逆らうこともできず、母親を洞窟の奥に捨てた。

 それに耐えきれず小屋の中に引きこもった彼に、奴隷頭が言った。

「お前の母は男と逃げた上に死んだ」

「お前は母に捨てられた。そう思え」

と。(続く)

第333話までお読みいただき、ありがとうございます。

アトラス帝国皇帝は、どうして誕生したのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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