第331話。アトラス帝国皇帝を内包した巨大な邪竜に立ち向かう、小さな闇竜エレサーレ。大きさがひどく違う二頭が戦う姿に、地上の人々も声を上げる。邪竜の攻撃に、エレサーレは…。
第331話です。
「エレサーレ…!」
マ・リエは声を上げたがそれにかまわず、彼女を背に乗せたルイは素早くエレサーレの背後から離れ、走って二頭の竜から距離をとった。
そして、自分たちの周りを覆うだけの結界を張り直す。
歌をやめたまま、マ・リエは心配そうにエレサーレを見つめた。彼女が歌えば、エレサーレがまとう邪気を消してしまうため、マ・リエはエレサーレを見た瞬間から歌うのをやめていたのだ。
以前会ったときには、骨とはいえ体を持っていたエレサーレだったが、今は魂に邪気をまとっているだけだ。
邪竜の力でもあるが、エレサーレの力でもある邪気を、マ・リエは消したくなかった。
「あれが…エレサーレ…」
結界の中で、ルイがつぶやく。
「キュアアアアア…! ゴゥワァァ…!」
金切声を上げながら、邪竜がエレサーレに飛びかかる。
「ウォォォォ…! ガゥゥゥ…!」
それを受け止めて、エレサーレが吠える。
大きさの全然違う二頭の竜は、凄まじい声で吠え合いながら、お互いに向かって攻撃を始めた。
エレサーレと比べるべくもなく大きな邪竜は、多数の触手や邪気のつぶてを打ち出しては、闇竜…暗黒神竜エレサーレに対して、攻撃を繰り出した。
それは圧倒的であるように見えた。
だが。
邪竜の触手やつぶては全くこれっぽっちも、暗黒神竜エレサーレを傷つけることはなかった。
それどころか、触手もつぶてもエレサーレに当たると全て、すうっと消え去っていったのだ。まるで、最初からなかったかのように。
邪竜の攻撃はどれ一つとして、エレサーレに対して有効ではなかった。
「同じ力を持っているから、邪竜に対抗できるって…こういうことだったのね」
マ・リエはヴァレリアの言葉を思い出し、ルイの背中でそう呟いた。
触手やつぶてがエレサーレに通用しないとわかると、邪竜はその大きさを生かして直接力でねじ伏せるべく、エレサーレを捕まえようとその手足を伸ばした。
だが、スピードで遥かに勝る小さなエレサーレを捕らえることができずに、空中でギリギリと歯噛みする。
その尾を叩きつけてわずかに当てたり、ブレスを吐きつけるのが精一杯だが、尾を叩きつけても邪気で膨らませた尾の力では大したダメージをエレサーレに与えることはできず、また邪気のブレスに至っては、まるで風に吹かれただけのように、エレサーレに全く影響を与えることはなかった。
その風に吹き飛ばされても、エレサーレはすぐに空中を飛びながら体勢を立て直す。
そして己に影響をおよぼさない邪竜の攻撃をかいくぐっては、その体に牙をたて爪で引っかいては、尾で殴りつけた。
「ギュ…アァア…!」
小さなエレサーレの攻撃は、驚くほど邪竜にダメージを与え、邪竜は咆哮とも悲鳴ともつかぬ叫び声を上げる。
それらを地上で見ていた人々は、歓声を上げた。
「闇竜様! 頑張れ…!」
「聖銀様を守って…!」
「ざまあみろ、邪竜め!」
「小さいからって、舐めるなよ!」(続く)
第331話までお読みいただき、ありがとうございます。
エレサーレは邪竜に勝てるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




