第329話。ユニコーンのルイが張った結界を、邪竜の邪気が侵食し、とうとう破れてしまう。そのとき、ルイと聖銀竜の少女マ・リエの目の前に現れたのは、邪気の中でかつて会った竜だった。
第329話です。
結界の外の空気が、濁流のように内側へと流れ込んできた。
そのとき…マ・リエとルイの目の端にちらりと、翠色の光が見えた。
マ・リエの歌による光を、怒涛のように襲い来る邪竜の黒い邪気がみるみるうちに侵食する。
その邪気の中から、ひとかたまりの黒いものが、ルイとマ・リエの前に飛び出してきた。
ルイは思わず後ろに下がったが、マ・リエの内の聖銀竜、ナギはマ・リエに語りかけていた。
『大丈夫だ、マ・リエ』
「えっ…でも」
『ようやく来たか』
「なっ…何、が?』
驚き戸惑うマ・リエとナギの前に飛び出してきた黒いもの、それは。
小さな黒い竜の形をしていた。
その背には、六枚の羽根が見える。
ああ、それは。
「「エレサーレ…!」」
マ・リエとルイ、そしてナギは、同時にその名を呼んだ。
邪竜と同じ黒い竜の姿ではあるものの、邪竜よりはるかに小さなその竜こそは、神金竜ヴァレリアが暗黒神竜と名付けた闇竜…エレサーレだった。
『遅ぉく…なりましてぇぇ…申し訳、ないぃ…』
エレサーレは、マ・リエとルイを守る盾のように、邪竜に対して向き直った。
『聖銀、さまぁ』
久しぶりに聞く、エレサーレ独特の話し方に、マ・リエは歌をやめて首を横に振った。
「いいえ、決してそんなことはないわ。ありがとう、私たちを助けに来てくれたのね、エレサーレ。…でも…どうやって?」
不意に現れた小さな黒い竜を訝しんで、邪竜からの攻撃はやんでいた。邪竜は首を傾げ、この黒い竜が何者であるのか、推し量っているように見えた。
エレサーレは首だけをマ・リエに振り向けて、ゆっくりと話し始めた。
『わたし、を…風の、竜の、長が…むかぇに、きてぇ…くれたのだ…』
「風の竜の長? それって、ミンティちゃん?」
マ・リエとルイは、さきほどちらりと見えた翠色の光を思い出した。
あれは…風竜の長ミンティ・ラナクリフの、翠色のウロコに太陽の光が反射したものだったのだ。
「そうか」
ルイがマ・リエを振り返って、頷きながら言った。
「ヴァレリア様だ」
「えっ」
「ヴァレリア様が、遠くにいたエレサーレを迎えに行くよう、風竜の長様に頼んだんだろう。彼女がこの世で一番速い。その速度は、音をも超えると言われているからな」
「音よりも速い、ですって? それじゃマッハじゃない…」
「まっは?」
「いっいえ、何でもないわ」
エレサーレが頷いた。
『彼女のぉ、四枚羽根はぁ…音より速く、飛べる…』
「そうだったのね…改めて、すごいわ」
そう言って、マ・リエは壊れたルイの結界の向こうにいるだろうミンティに目線をやった。(続く)
第329話までお読みいただき、ありがとうございます。
これで戦況は変わるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




