第328話。金の翼の白いユニコーンの背に乗った聖銀竜の少女マ・リエの背中には、真っ白な翼が広がっている。歌い続ける彼女だったが、ルイの張った金色の結界に黒いシミが広がり始めて…。
第328話です。
男も、女も、人も黒鋼竜も、老人も幼子も、連れている犬や猫ですら、空から目を離せずにいた。
人々の視線の中、邪気のつぶてを必死にぶつけ、黒く染まった触手を伸ばして少女を絡めとろうとしている邪竜の姿があった。
何本もの触手の攻撃を、空を蹴って走り避け続ける、翼もつ金と白のユニコーン・ルイ。
その背で歌う少女の歌は、素早い動きで走るルイのスピードにも負けず、美しいメロディを奏で続けていた。
彼女の背中には、真っ白な鳥のそれのような翼が大きく広がっており、きらきらときらめく光で覆われている。
白い翼の少女は、その姿と歌だけで言えばまるで夢のように美しかった。彼女の歌による光が見る間に広がり、攻撃の中心である漆黒の邪竜をも包んでゆくと、邪竜は苦し気な叫び声を上げた。
「やった、竜をも光に包んだぞ!」
「これで倒せる?」
人々の声の通り、邪竜は光に包まれて一回りほど縮み、その攻撃も少なくなっていった。
しかし。
「あっ…あそこを見て!」
目のいい一人の子どもが、ルイの張ったまるい結界の一部を指し示す。人々がそこを見ると、シャボン玉のような淡い金色の結界の一部に、ぽつりと黒いシミが広がっていた。
「フフ、フフフフフ…」
身を縮こまらせていた邪竜が、低くほくそ笑むのが聞こえる。
「所詮は眷属にすぎぬなあ…神金竜そのものならともかく、神気を与えられたとはいえ貴様のような小さきもの…やはり弱いわ! 神竜にははるかに劣る!」
ははははは…と、勝ち誇った笑い声が光の中からこだました。
「このようなもろい結界で、余を閉じ込められるとでも思ったか! バカめ…!」
結界に落ちた黒いシミが、広がってゆく。
「ほころびの虚無と邪気を一か所に集中させれば、こんなもの簡単に破れるわ!」
「く…っ」
結界を強化しようと、ルイの金色の角が輝きを増した。しかし彼はその背に乗せた少女マ・リエを邪気のつぶてと触手から守るため、高速で動き続けるのに精一杯で、なかなか結界の修復も強化もできない。
マ・リエが歌い続けているため、シミの広がりは抑えられているが、それでもゆっくりと、不気味にじんわりと、シミは大きくなってゆく。
唇の端を上げて低く笑う邪竜の思うがままに、なってしまうのだろうか。
シミの黒さが増し、範囲が広がり続けるのを、地上の人々は不安そうに見上げていた。
幾度も幾度も、ルイは結界を補修しようと試みたが、そのたびに邪竜の攻撃が入り、邪魔をされてしまう。
そして、次第にルイの結界は軋み始めた。
「クックックッ…クワックワックワッ…」
段々と、邪竜の笑い声が大きくなってゆき、ルイは焦った。
「くっ…くそおっ…!」
悔し気に叫ぶルイだったが、その背に大切なものを背負っている限り、攻撃に当たるわけにはいかない。どうしても、結界のことは後回しにせざるを得なかった。
黒いシミは勢いを増し、修復されぬまま見る間に金色のシャボン玉のような結界を侵食していった。
そしてついに金の結界に穴が開くと、結界は粉々に砕け散ってしまった。
「ああっ…!」
地上の人々が叫び声を上げる。(続く)
第328話までお読みいただき、ありがとうございます。
このまま邪竜の思うがままになってしまうのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




