第323話。聖銀竜ナギを内包する少女マ・リエの危機のとき、彼女と邪竜の間に立ち塞がったのは、光る二人の姿だった。その姿はマ・リエの両親の後ろ姿に似ていて、彼女を癒し…。
第323話です。
その時、二つの光が背後から私の前に現れた。まるで私をかばうみたいに。
その二つの光は見る間に人型になったが、私はその姿に、もうほとんど石化してはいるけれど、ダイヤモンドのせいかはっきりと見える己の目を疑った。
だって、その姿は…まるで…。
右前に立った人影は、黒髪で青いドレスを着た、すらりとした女性に。
左前に立った人影は、明るいくせ毛をして黒いタキシードを着た男性になっていた。
彼らの背中しか見えない私には、彼らの顔は見えなかった、けれど。
その姿には、見覚えがあったのだ。
昔、おばあちゃんに連れられて一度だけ行ったことのある、両親の楽団のコンサートで。
そして、私の部屋に飾られた、その時に撮った写真で。
「おかあ…さん、おとう…さん」
それは私の両親の姿。
もうすっかり、忘れてしまったと思っていた。
でも…覚えていた。
私は覚えていたんだわ…!
そうよ、だって、私のお父さんとお母さんだもの! 忘れるわけ、ない。
ああ、お父さん、お母さん。私とずっと一緒にいてくれたのね。
その肉体は果てても、魂は私の傍にいてくれたのね。
そういえば、最初に出会ったとき、ナギが言っていたっけ。
『そなたには親の魂がついていて、特別に強かったのだ。魂の中でもより強く、美しく輝いていた』…と。
両親の愛に触れて、私の心臓は熱く、より強く鼓動を刻んだ。
頬が熱い。
流れる涙は頬を伝い終わると、ダイヤモンドのカケラとなって私の顎からコロコロと中空に落ちていった。
ああ…お父さん、お母さん。
ありがとう。
「なっ…なんだ、この光は…! なんだ、貴様らは…!」
新たに現れた姿に、邪竜が吠えた。
その、時。
澄んだ清らかな音が、周囲に響き渡った。
黒いタキシード姿のお父さんが、光のヴァイオリンを奏で始めたのだ。
その途端、邪竜の触手と邪気のつぶてが、あっけないほどに私の周囲から消え去った。私を縛っていた触手も、同じように綺麗さっぱり消え去っていた。
そして柔らかく涼やかな音が、ヴァイオリンの音に続いて響き始めた。
青いドレスのお母さんが、銀色のフルートを吹き始めたのだ。
それと同時に、ダイヤモンドに覆われていた私の体が、元の肉体へと戻っていく。まるで、映像の逆回しを見ているかのような光景に、私は驚いた。
逆回しは元の肉体に戻っただけでなく、それまでに傷ついた全身も癒えていく。
音楽によって、邪気を祓い、傷を癒す。
私の場合は歌だけれど、お父さんはヴァイオリン、お母さんはフルートと、楽器によってそれを成すということは、私と同じ力を持っているのね。
ううん。きっと。
私の力は、お父さんとお母さんが与えてくれたものなのかもしれない。(続く)
第323話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・リエの両親が、彼女のために姿を現してくれたのですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




