第318話。聖銀竜ナギを内包した少女マ・リエを守ってくれていた、八千年前に生きていたナギの姉ナユの遺したウロコが砕け散るのに、激しい怒りを覚えるマ・リエ。ナギは止めるが…。
第318話です。
パリ…ン。
三枚目のウロコが砕け散る小さな音がした胸元から、発せられていた光が急速に小さくなってゆく。
『ま…も…、ナ…ギ、マ、リ…』
声とともに、私を抱き締めていた腕がすうっ…と消えた。
「ナユ、ナユ…っ」
私はドレスの胸元を握り締めた。そこにウロコの感触はなくなっていて、冷たくなっていた。
「ナユ…おねえ、さん…!」
目の前が、真っ赤に染まった。
胸の奥から、何かが湧き上がってくる。
マグマのような、灼熱に燃える感情。
それは深い悲しみから発せられる、怒りだった。
そして、今まで感じたことのない…きっと初めて持った、憎悪という感情だった。
ナユ、ナユ。
私を妹と言ってくれた。
一人っ子で、兄弟姉妹のいない私が初めて得た、姉という存在。
「おねえさん…姉さん!」
私は叫んだ。歌でもスキャットでもないその声に、邪竜の触手と邪気のつぶてが消えてゆくのを不思議にも思わずに。
ナユはきっと、己のウロコの中に、己が心と魂のカケラを封じ込めていたのだろう。
それがこのギリギリのときにナギを、そして私を守ってくれた。
きっと、ナギを守ろうとする私の強い心に反応して発動したのだろう。
でも。
もう八千年も経っている。込められた心と魂はごくわずかにはなったのだろうけれど、それでもあのナユは、残留思念などではなかった。
小さな小さな、心と魂のカケラが、確かに生きていた。
だって私のことを、妹と呼んだのだもの。
ウロコに心を込めたときには、私のことは知らなかったはずなのに、私のことまで守ってくれたのだもの。
それを…そこまでして残してくれた、ナユの心を、あなたは…!
私は産まれて初めて、激しい憎しみをこめて邪竜を…皇帝を睨みつけた。
ナユの心を…魂のカケラを、あなたは…おまえは、殺したんだ…!
許さない。
許さない許さない許さない。
ゆる、サナイ…!
私は息を大きく吸い込み、その怒りを絶叫した。
『マ・リエ…! だめだ、駄目だ…! その感情を、開放しては駄目だ!』
私の中で、ナギが何か叫んでいる。
けれど、怒りと悲しみ、そして憎しみで我を失った私は、その言葉の意味を聞いていなかった。(続く)
第318話までお読みいただき、ありがとうございます。
聖銀竜ナギが止めるも、マ・リエの怒りはおさまらず…。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




