第313話。黒き邪竜と聖銀竜の少女マ・リエの戦いを、かたずをのんで見守る人々。少女は空中で、どのような戦いを繰り広げるのか。ほころびの瞳がある限り、邪竜は無敵なのか。
第313話です。
地上の人々は黒鋼竜の結界の中から、小さな聖銀色の少女が光を放ちながら上昇するのを、かたずをのんで見つめていた。
どうか、どうかあの少女に勝機を。
ただ見つめることしかできない、自分たちには何もできないことがわかっているからこそ、彼らは必死に神に祈った。
「おのれええ…小娘が、ちょこまかと…!」
真っ赤な口をくわっと開き、真っ黒に染まった邪竜は邪気に濁った血の色の瞳をマ・リエに据えて、彼女の後を追って飛び上がった。
「ラララ…ララ…」
あんなに激しく動いているというのに、少女の歌声は息切れすることもなく、静かに歌っているかのようだった。しかし彼女が高速であちこちに移動するために、歌声は方々から聞こえてきた。
マ・リエの歌声は彼女が息を吸うわずかな瞬間途切れ、その隙間をぬって触手とつぶてが少女を襲う。高く舞い上がった彼女の歌声に浄化されて、空を覆う邪気の一部が消えた。
その瞬間、邪気の隙間から太陽のまぶしい光が射し込んできて、マ・リエを追っていた邪竜の赤い瞳を焼いた。
「ギャアッ…!」
邪竜は叫び、禍々しい爪の伸びた手で両目をかきむしった。その隙をついて、マ・リエは今度は邪竜を避けるように旋回しながら下降する。
「き、きさま、キサマ…ッ! 許さん、許さんぞお…!」
ブワッ、と邪竜から邪気が噴きあがると、わずかに太陽の光を通していた邪気の雲の隙間は塞がれてしまったが、邪竜はマ・リエの姿を見失って左右を見回した。
邪竜の斜め下に移動していたマ・リエは、その間に息を整えることができた。
「やり方がわかってきたわ…」
そうマ・リエは呟く。歌っても触手もつぶても全ては消せないけれど、隙間のできた場所に逃げ込むことができることを、彼女は悟ったのだ。
「そこかあ…!」
マ・リエに気づいた邪竜から、再び触手と邪気のつぶてがマ・リエに伸びてきたが、彼女はそれをよく見て避けた。避けた先にも触手が伸びてくるけれど、ダメージを覚悟の上で飛び込む。
「でも、このままでも駄目だわ…あの邪竜自身の邪気を、なんとかしなくちゃ」
マ・リエは決意して、つぶてを避けながら邪竜の近くへと飛んだ。飛び込んで来られて一瞬ひるむ邪竜の傍をかすめるように飛びながら、声を張り上げて邪竜から放たれる邪気を浄化し、触手もろとも削り取る。
だが…すぐにほころびの瞳から、帯のように邪気が邪竜に流れ込んでいって、元に戻ってしまった。
その様は地上の黒鋼竜の結界内にいる人々からも見えていて、彼らは口々に悲鳴を上げた。(続く)
第313話までお読みいただき、ありがとうございます。
少女は邪竜にどのように対するのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




