第311話。何故こんなことをするのかと問う少女マ・リエに、黒く染まった邪竜は答える。マ・リエが話したことこそが、自分の望みなのだと…。そんなことはさせないとマ・リエは叫ぶ。
第311話です。
「あなたはどうして、こんなことをするの?」
「なんだと?」
「だって、こんなことをしたって、誰も得などしないわ。虚無と邪気に覆われて、皆死んでいくだけじゃないの。国が滅んでしまうわ。それなのにあなたは、どうしてこんなに邪気をばらまくの? 塔を崩したのだって、瞳を開いたのだって、あなたなのでしょう?」
そうすると、クワッ、クワッ、クワッ…という音が邪竜から放たれた。しばらく考えて、それがどうやら笑ったらしいとわかった。
「それこそが余の望みよ」
なんですって?
「この国の滅亡こそが、余の望み。この国の人間どもが邪気に覆われ、逃げ回り、のたうち回って苦しむ姿を見ることこそが、我が望み」
私は言葉を失って、また笑い始めた邪竜の姿を見つめ、混乱しながらなんとか言葉を紡いだ。
「でもあなたは、この国の皇帝だったんでしょう? 何百年もこの国を守ってきたのでしょう? なのに何故今、この国を滅ぼしたいというの?」
「最初から…そのつもりだったわけではない」
邪竜は少しばかり笑いをおさめて、ぽつりと言った。
「魂に邪気を宿す苦しみなど、お前にはわかるまい」
「えっ…」
「邪気を抱えて何百年もたつうちに、苦しみと辛さが頂点に達し…もう全てが、どうでもよいと思えるようになった。憎いあの女の国を、怒りをもって滅ぼす…それが、余の目的となったのだ」
フン、と邪竜が鼻を鳴らした。
「ここに邪気の国を作ってもよいな。邪気の中でも、のたうち回りながら生き残った者がいるならば、余の配下にしてやってもよい」
そしてクックックッ…と低くがさがさした声で笑う。
「そして、余は聖銀竜の体を使って、邪気の国の王となるのだ。クククッ…ククッ、クワッ、クワッ…」
邪竜はだんだんと大きく、軋んだ笑い声を上げ始めた。
それは本当に楽しそうには、私には見えなかったけれど。
だけど…なんてことを言うの。
そんな国、できるわけないわ。
そんなこと、私がさせない!
だって、ここだけですむわけないもの。
あの瞳を閉じない限り、周囲にどんどん邪気は寝食していくわ。
みるみるうちに周辺が邪気の黒に、死に染まっていく様子を想像して、私はぞっとした。
この人が世界を邪気に染めるというのなら、私はそれを止めるための盾になる。
その決意を胸に、私は叫んだ。
「ダメよ!」
「なんだと?」
「それはただの、死の国じゃないの!この世界を、死の国に変えるつもりなの、あなたは?」
私の言葉に、邪竜の瞳が薄く細まった。(続く)
第311話までお読みいただき、ありがとうございます。
邪竜はマ・リエの言葉にどう答えるでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




