第307話。黒鋼竜の力の使い方のひとつを知り、己の力に驚くルシアン。なぜマ・リエの中にいる聖銀竜のナギが狙われるのか。聖銀竜の力とは、どんなものなのか?
第307話です。
なんとしてもナギを守らなければなりませんね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。
「うむ。黒鋼の力は、邪気と虚無を封じこめる、結界の力じゃな。その力は外界だけではなく、体内にも及んでおる。創世の頃には、小さな邪気の塊だけならば、黒鋼竜が体内に結界を張ってそれを吸い込み、聖銀や神金のもとに運んで消すか浄化していたものじゃ」
「そうだったのですか?」
ルシアンは目を見開いた。己の力に、そんな使い方があったとは、考えたこともなかったからだ。
自分たちはただ、その場に邪気や虚無を封じ込めることしかできないとばかり、思っていた。
「うむ。それゆえ、奴がもし黒鋼竜の体内に入れば、体内結界の内に封じ込められてしまうじゃろう」
ヴァレリアの言葉を聞いていたユニコーンのダグが、口を開いた。
「けれど、封印に閉じ込められる前に黒鋼竜を乗っ取ってしまえばよいのでは?」
ヴァレリアは今度はダグに振り返った。
「うむ、よい質問じゃ。それについては、黒鋼竜の持つ封印の特性を聞けばわかる。つまり、黒鋼竜の体内結界は…邪気や虚無を取り込んだその瞬間に、即座に展開される、ということなのじゃ」
「なるほど、そうだったのですね」
ダグたちは頷いた。それなら、あの邪竜が黒鋼竜を狙ってこない訳もわかるというものだ。
「しかし」
今度は雷虎のタニアが口を開いた。
「聖銀様は、黒鋼様よりはるかに強い神気を持っておいでです。それでも、乗っ取られてしまうというのですか?」
ヴァレリアはふっ…とうつむいた。
しばし下りた静寂に、一同はじっと彼女を見つめる。
遠くに、邪竜のキァアアア…という叫び声が響いてきた。
マ・リエが頑張っている。
一同は、胸が張り裂けそうな思いでその声を聞いた。
「聖銀の力はのう…優しい力なのじゃ」
そんな中、ヴァレリアが囁くように言う。
「わらわの…神金竜のように消し去る力ではなく、邪気と虚無のみを分離させ、浄化する…邪気ですら、出来る限り傷つけないように、じゃ」
「そんな…」
「ゆえに、浄化には時間がかかるのじゃ。だから邪気にとっては、その前に聖銀の魂に憑りつく余裕がある、ということなのじゃ」
その説明を聞いた一同は青ざめた。
「そう…だったのですね」
「奴は、数百年の間アトラス帝国の皇帝でいた期間に、そのことを知ったのであろう。わらわがどれほど弱っていようとも、屈強な黒鋼竜の男たちが何十頭もいたとしても、奴が乗っ取ることのできる神竜は存在しなかった、ということじゃ。そう…ナギが現れるまでは、な」
一同のうち誰かが、ぽつりとつぶやいた。
「ナギ様は、今その御力をふるうことのできる、唯一の聖銀竜様…」
「そうじゃ。そして奴が入り込むことのできる、唯一の神竜。だからこそ、なんとしてもナギを守らねばならぬ」
「ナギ様が乗っ取られてしまえば、今現在、この世から邪気と虚無を浄化できる存在がいなくなってしまう」
うむ、とヴァレリアは頷いた。(続く)
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