第305話。風竜の長ミンティ・ラナクリフは、神金竜ヴァレリアの声を聞く。邪竜に抵抗できる存在を迎えに行って欲しいのだと。四枚羽根の風竜ならば、音よりも速く飛べるというが…。
第305話です。
『風竜の長、ミンティ・ラナクリフよ。わらわは神金竜、ヴァレリア・ヴァレリー。そなたに重大な任務を頼みたい』
「えっ神金竜様?」
ラナクリフは驚き、数メートル落ちかけてあわてて飛び上がった。
声の主が神金竜だと知り、即座にこれが念話であることを悟ったが、そのときちょうど邪竜の触手がマ・リエを襲ったのが見えたため、彼女の意識はマ・リエの危機に傾き、会話をおろそかにした。
「それどころじゃないよ! だってマ・リエちゃんが…聖銀ちゃんが今、危ないのに…!」
格上である神金竜に対してもタメ口なのは、さすがラナクリフというか、それだけ彼女が焦っている証拠であろう。
『風竜の長よ。我が言葉を聞け』
「あなたは…あなたは何故、マ・リエちゃんを助けないの? 神金竜様なのに…!」
その言葉が言いがかりであるということは、ラナクリフには十分にわかっていた。まともに歩くことすらできないヴァレリアが、あの邪竜と戦えるはずもない、ということも。
けれど、言わずにはいられなかった。
『すまぬ。今のわらわには、あの邪竜と直接戦うだけの力はないのだ…。だが、邪竜に対抗できる者がいる。そなたに、その者を迎えに行って欲しいのだ』
「わたし、に?」
ラナクリフはきょと、と瞳を見開いて空中で固まった。
あまりにも無力な己にも、できることがある?
「迎えにって…その人は、直接ここには来られない、ってこと?」
『とうに呼んでおる。その者は闇竜と呼ばれる竜なのだが…居場所がそこからははるかに遠いのじゃ。聖銀が持ちこたえている間には、間に合わぬだろう。それゆえ、スピードで勝るそなたに行って欲しい。行先はわらわが導くゆえ』
ラナクリフには、ヴァレリアが言っていることが真実であるとわかった。同じ竜であるからなのか、それとも相手が神気を持った存在であるからなのかはわからなかったが、神金竜ならばそんな力を持っているのだろうと思えたのだ。
しかし。
「で…も」
ラナクリフは、マ・リエのほうを振り返る。たとえ何もできなくとも、今ここから離れるのは後ろ髪を引かれる思いだった。
己がいない間に、マ・リエが邪竜にこれ以上傷つけられるか、考えたくもないが最悪殺されたりしたら…。
そんな彼女の心に、ヴァレリアの静かな声が降りかかる。
『聖銀を救いたいのであろう? ここにいても、そなたのできることはない。そなたはそなたのできることで、聖銀を助けるのだ。その四枚羽根で、音よりも速く飛んでな』
「音よりも?」
『創世の頃、四枚羽根の竜はそれなりにおったのだ。真竜の各属性にも、神竜にもな。だが、風竜にはおらなんだ。どの竜も飛ぶのは速かったが、音よりも早く飛べる者はいなかった。わらわはずっと思っていたのじゃ。四枚羽根の風竜がいたならば、音を飛び越すことができるのではないか…とな』(続く)
第305話までお読みいただき、ありがとうございます。
ミンティは音よりも速く飛ぶことができるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけたら嬉しいです。




