第304話。聖銀竜の少女が邪竜と戦っている間、結界の少し外の空中には、風竜の長ミンティ・ラナクリフがいた。飛び回る彼女の脳裏に、誰かの声が響いてきて…。
第304話です。
その話はさざ波のように結界内の人々の間に広がり、膝まづいて祈っていた者たち以外の者たちも、手を組み聖銀に祈りを捧げた。
そして皆、上空の光と邪気の戦いから目を離せずにいた。
そのころ風竜の長、翡翠色の真竜ミンティ・ラナクリフは、ヴァレリアとルシアンの張った結界の少し外の空から、それまでのなりゆきを全て見ていた。
マ・リエの命令により、彼女のもとに戻ることはできなかったが、マ・リエのことが心配でならず、ヴァレリアたちのところへ戻ることもできずにいたのだ。
だからルシアンの張った結界の少し外を飛び回り、マ・リエを懸命に探し見つめていた。
彼女が飛びまわるたびに、結界の外で太陽の光を浴びたラナクリフのウロコはきらきらと翡翠色に輝いた。結界の中からそれを見た者は、きっと空を翠色の宝石が高速で動いているように見えたことだろう。
ラナクリフはマ・リエが浄化を行うのも、ほころびの瞳が邪気を飛ばすのも、邪竜が城の地下から現れてくるのも、そして邪竜が邪気を飛ばし触手を伸ばしてマ・リエを襲うのも、全て見ていた。
大切なマ・リエを危険から守りたくても、ラナクリフにはどうしようもなかった。
「聖銀ちゃん…マ・リエ…ちゃん…!」
彼女の力になりたいのに、己には何もできない。
それがもどかしくてたまらず、ラナクリフはただ飛び回りながら彼女の名を叫び続けた。それが少しでもマ・リエに届いて、彼女の力にならないものかと願いながら。
「マ・リエちゃん…っ!」
ああ、この結界が、そしてマ・リエから受けた命令が恨めしい。
今すぐにでも大好きなマ・リエのもとに駆けつけて、彼女を己が体であの邪竜の奴めから守ってやりたいのに。
「ごめんね、マ・リエちゃん。私がこんなところにいたら邪魔なだけだよね。でも私はどうしても、ここから離れることはできないの…」
ぽろぽろ、と翡翠色のウロコの上を透明な液体が流れ落ちては、高速で飛んでいるためにあっという間に後方へ飛ばされていった。
熱いそれが己が流した悔し涙だと理解しないまま、ラナクリフはただぐるぐると、結界の外を飛び回る。
「マ・リエちゃん…! 私は、私には何もできないの…? あんなに苦しんで戦っているマ・リエちゃんを、一人にしたくないのに…!」
けれど、たとえ己があの場に行けたとしても、ただ足手まといにしかならないのはわかっている。
何故己には神気がないのか…と、それが恨めしかった。
そんなラナクリフの頭の中に、その声は響いてきた。
『…えるか? 聞こえ…るか?』
「えっ?」
ラナクリフは飛ぶのをやめて空中に留まり、その不思議な声に集中した。
ほんの少しの変化でも、今はつかみたかった。
『風竜の長よ。聞こえるか?』
ラナクリフが集中すると、その声はすんなりと頭の中に響いてきた。
「えっ? 誰?」
ラナクリフは考える前に言葉に出して問い返したが、相手にはそれでも通じているようだった。(続く)
第304話までお読みいただき、ありがとうございます。
ミンティちゃんに話しかけてきたのは誰なのでしょう。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




