表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
303/357

第302話。とうとう戦いが始まった。空に浮かび、浄化のための歌を歌いながら邪竜と相対するマ・リエ。人々が見つめる中、マ・リエは不利に見えるが…。

第302話です。

    ◆  ◆  ◆



 どす黒い邪気に染まった空の中に、一人の小さな少女が浮かんでいる。

 少女は十字の形をした光の中心に浮いていて、両手を横に広げていた。

 彼女の着ている白いドレスが光の中心ではためいて、細い体を際立たせている。

 背中の中央まで伸びた淡い聖銀色の髪が、頭につけた透けるような長いヴェールと共に風に浮きあがり、頬をピンクに染めた白い顔を飾っていた。

 少女の見開かれた瞳は鮮やかなローズクォーツ色に輝いていて、光の中でも一層きらめいていた。

 十字の光の中心で歌い始めた少女の澄んだ声が、周囲に響き渡り始める。

「虚無よ 邪気よ 退きたまえ

 蒼き空を取り戻し 澄んだ空気が戻ってくる

 光り輝く空よ 胸いっぱいに吸い込む大気よ 踏みしめる大地よ

 邪気を取り除き 清らかさを取り戻したまえ」

 その歌声が響き渡るのを追いかけるように、十字の光はその強さを増し、広がっていった。

 黒鋼竜の結界の中にいる人々も、遠くから空を見つめる人々も同様に息をのんで、邪気が浄化されるのを待った。

 きっと、そうなると思っていた。

 しかし、圧倒的な邪気と虚無の嵐に、光は広がる端からかき消されていくではないか。

「ああ…やはり、だめなのか」

 人々はため息をついたが、少女の歌声はやまない。

 暗闇の中の十字の光の中心にぽつりと浮いた小さな少女が、声をふりしぼるようにして歌っている。

 人々はその様子に、次々と祈るように膝をつき、少しでも祈りが少女に届くよう願った。

 懸命に歌う白いドレスの小さな少女に、多数の触手を振りかざして邪気のつぶてを放つ、漆黒に染まった巨大な邪竜が襲いかかっていく。

 少女は触手をすり抜け、邪竜の放つつぶてをかいくぐりながら歌い続けた。

 人々の希望を一身に背負って。 

 歌うことをやめなかった。

 それはすでに詩のついた歌ではなく、メロディだけのスキャットや、ハミングだけのものになっていたが、それでも小さな体から神気の光を放ち続ける。

 どす黒い邪気のつぶてをかわしながら、きらきら、きらきらと黒い空の中を輝きが速い動きで動いていく様は、まるで暗闇の中を高速で飛ぶホタルのようだった。

 少女を中心に十字に伸びていた光は、今や彼女の周りをまるく取り巻くだけになっていて、ラララ、ラララ…と歌い続ける少女の光を、人々は祈りながら食いいるように見つめている。

 どうか、どうか少女が勝ちますように。

 けれど邪竜はあまりにも大きく、吐き出される邪気のつぶてはあまりにも多く、ぽつりと空に浮いた少女には、到底勝ち目はないように思われた。(続く)

第302話までお読みいただき、ありがとうございます。

とうとう邪竜との闘いが始まりました。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ