第301話。ヴァレリアは邪竜はマ・リエを殺すことはしないだろうと言う。その理由と、恐ろしい邪竜の考えとは。マ・リエはナギを、そして皆を守るため、邪竜と戦う決意をする。
第301話です。
『マ・リエ、あれはそなたを殺すことはせぬ。そなたが死ねば、融合しているナギも死ぬからじゃ。それゆえ、そなたが抵抗できなくなるように、そなたの魂を傷つけ、壊し、粉々に砕くだろう。肉体の痛みや苦しみは、心と魂とを傷つけ弱らせる。それゆえ、まずはそなたの肉体を痛めつけ、それから弱ったそなたの魂を砕くつもりであろう』
「………」
あまりのことに、私は言葉を失って息を詰まらせた。
まさかあれが、そこまで考えているなんて…思ってもみなかったからだ。
まずは肉体を、それから魂を、ですって?
『そなたとナギの浄化の力は、あれを近づけぬようにはできるかもしれぬ。だが、あの邪気の触手や、邪気のつぶてを全て消し去ることはできぬだろう。そなたは触手をかわし、この限られた空間の中で逃げ回りながら歌わなければならぬ。傷つき、苦しむことになろうとも』
私はぎゅう、と両手を握り締めた。
全身がぶるぶると震える。
怖い。
怖い。
でも、やらなくちゃ。
ナギのためにも。
この私が、やらなくちゃ。
私ははっきりと震えてしまっている声で、すがるようにヴァレリア様に問いかける。
お願い、希望を与えて。
「私が頑張れば…あれを何とかできるのですよね?」
私の恐怖を感じ取ったのだろう、ヴァレリア様の声が優しくなった。
『闇竜は、邪気だけでなく、神気をも持っておる。暗黒神竜とでも、呼ぶべきであろうな。彼が来れば、あれに対抗できる』
胸の中に、ぽつりと希望が生まれた。
『マ・リエ』
ナギが気づかわしげに呼びかけてくる。
私は口元を上げた。
微笑の形に。
そうすると、力がわいてきた。
大丈夫よ、ナギ。
私は頑張れる。
大切なあなたを、そして皆を守るためなら、どんな苦しみにだって耐えてみせましょう。
私は心の中で、ナギをそっと…けれど力強く、抱き締めた。
「だから…ナギ、私がどんなことになっても、絶対に外には出ないでね。絶対よ。約束よ」
『…マ・リエ…我は…』
「大好きよ、ナギ」
その時、私を包んでいた結界が消えていった。ルシアンの力が尽きたのだろう。
ヴァレリア様の声が遠くなっていく。
『あらがえ、マ・リエよ。わらわもでき得る限り、そなたの援護をする。けして…あきらめる…な…』
少し離れたところで、いつの間にか攻撃をやめて様子を窺っていたらしき邪竜が、動き始めた。
私を狙って。
私は邪竜をきりりと、硬い意思をもって見据えた。
そうして。
戦いが…始まった。(続く)
第301話までお読みいただき、ありがとうございます。
とうとう戦いが始まります。
また次のお話もお読みいただけたら嬉しいです。




