第295話。邪気に沈められていた炎竜の子の魂に、絡みついているもう一つのものとは。その正体を知り、ぞっとするマ・リエ。そんな彼女に邪竜がしてきたこととは…。
第295話です。
「魂は…違う…いいえ、炎竜の子の魂は感じるけれど、もう一つ…別の魂を感じるの。とても邪悪な…邪気などよりよっぽどタチの悪い、嫌悪感を感じるくらいの憎しみをもった魂よ」
ナギは黙り込んだ。
私は目を閉じて、目前にいる邪竜に意識を集中した。
神気と魔力を使えば、邪気にまみれた邪竜の中を覗けるような気がしたからだ。
それに、何かあればナギが教えてくれるだろう、という信頼もあった。
私の意識の中で、黒い竜の形をしたもやの中心に、うっすらと輝くものが浮かび上がった。
それは赤みを帯びていて、球体をしているように見える。
見つけた。
きっと、あれが炎竜の子の魂なのだ。
良かった、あの子の魂はまだ存在しているのね。
けれど、その美しい赤い輝きの縁には、黒いシミのような、どろりとした泥のアメーバのようなものがへばりつき、球体の中に何十本もの邪悪な触手を差し込んでいるではないか。
触手が動くたびに、赤い球体は歪んで震え、苦し気にもがいていた。
なんということだ。
美しい魂に、別の邪悪な魂が寄生しているのだ。
その様を見た私は、ぞっとして震えた。
「ひどい…魂に寄生されて、体を乗っ取られたのね。ヴィレドさんが言っていた、皇帝の中にいた何かに…」
私には、直感的にわかった。
あの黒いアメーバのような魂の正体が。
それは、魂は消えぬまま邪気に汚染され、そして邪気を操る力を手に入れた人間のものだと。
エレサーレの中にいた王様や王妃様のように、ほとんど邪気と同化しながら、その意識や心を保ち、しかし王様たちとは違って邪気を操る力を手にしたのだろう。
どうやってか、はわからないけれど。
そこまで私が考えたとき、その魂を内包した邪竜が吠えた。
「キュアアアアア…」
この咆哮と同時に、邪竜のまとっていた黒いもやが一気に膨れ上がり、そしてはじけ飛んだ。
黒いもやは多数の触手に形を変えると、私を囲むように迫ってくるではないか。
私はあわてて周囲を見渡した。
けれどその時にはもう既に、全ての方角が黒いもやの触手で覆われていた。
まるで網をかぶせられるようで、私はゾッとして息をのんだ。
しかもその網は、触れれば邪気に汚染されるものなのだ。
怖い…けれど逃げることもできない。
私の中のナギが、咄嗟に神気で結界を張ってくれたけれど、それは間に合わなかった。
結界より早く黒い触手が滑り込んできて、私の腕に絡みついた。
「きゃあっ!」
私は体をすくませて、それを振り払おうとした。
その時。
「ギュアァ…グウ…ッ!」
邪竜が悲鳴を上げたのだ。
見ると、私の腕に絡みついた触手が、ボロボロと形を失ってもとのもやに戻り、私から離れていく。(続く)
第295話までお読みいただき、ありがとうございます。
なぜ、触手はくずれていったのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




