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第293話。噴きあがった邪気が竜の姿をとるのを、マ・リエと人々は呆然と見つめる。その姿とは一体。パニックを起こす地上の人々に、上空に浮かんだマ・リエが声を上げる。

第293話です。

「キュアアアアア…」

 咆哮とともに、噴きあがった邪気が一体の竜の姿になったではないか。

 その巨大さは、マ・リエが知っている最も巨大な竜、邪気竜エレサーレの数倍はあるのではないかというほどだった。

 だが、その輪郭はもやがかかったようになっているため、実体がどこまで大きいのかはわからなかった。

 黒と青紫色が混じりあったような、邪気をまとった巨大な竜は、幾度も叫ぶ。

「キュアアアアア…」

 その声は、甲高い咆哮というよりも、なぜか悲鳴のようにマ・リエには聞こえた。

 結界の中にいる人々や、結界が必要ないほど離れた場所で見ていた人々は、その邪気をまとった竜の禍々しさに悲鳴を上げ、パニックを起こして走り出す者も、ガクガクふるえながら座り込む者もいた。

 泣き出す者、どけと怒鳴って近くにいる人を突き飛ばし走り出す者、倒れて踏まれ動けなくなる者など、周囲は大混乱となった。

 兵士や神官、または冷静をどうにか保っている者たちが、混乱をおさめようと動いたがどうにもならない。

 このままでは大勢の人々が傷つき、死者さえ出ると思われた時。

 上空で、少女の可憐な声が響き渡った。

「静まりなさい!」

 それは、聖銀竜を内包する少女が水竜の砦でアトラス軍に放ったのと同じ言葉だった。

 人々は一瞬動きを止め、空を見上げた。

 その空には、巨大な邪竜の行く手を塞ぐように、小さな少女が両手を広げて浮かんでいた。先程の少女の歌を思い出し、人々が息をのんで彼女を見つめる。

「聖銀さま…!」

「聖銀さま」

「どうか、お助けください…聖銀さま」

 人々が口々に、少女を聖銀と呼んで祈りを捧げ始める。

 その上空で、少女はその小さな体と、しなやかだがかぼそい腕で、強大で食い止めることなどとてもできないように見える邪気を止めようとしているように見えた。

「歌って、聖銀さま」

「また歌で、あれをどうにかしてください」

「お願いします、聖銀さま」

 真っ暗に染まった空の中、人々の祈りを受けたかのように、少女が放つ小さな光が輝いている。

 それは絶望の中の一筋の希望のようだった。

 人々は次々に膝をついて、祈りを捧げてゆく。

 空から少女の声が響いてくる。それは彼女が内包した聖銀竜が、魔力に乗せて広く響かせているものだった。

「皆さん、落ち着いてください。大丈夫、私がいるわ。しっかりして。近くにいる者同士、手を取り合い、助け合って立ち上がるのよ」

 邪気が噴きあがっている城を中心として、何頭もの黒鋼竜が一定の距離をおいて地面に降りている。彼らは人間たちを恐れさせないように、人の形をとっていたので、一見竜だとはわからない。

 彼らがいるのは、それぞれが張る結界が隣接する程度の距離だった。ゆえに城の外側には、それぞれの黒鋼竜を中心とした結界がまるく張られている。

 その中に逃げ込んだ人々は、城の近くの上空に浮かんだ輝く少女の言葉に顔を上げた。

「みんな…みんな、生きて。大丈夫。私を信じて。手を取り合って、生きて」

 人々は小さな輝きに向かって立ち上がり、より結界の中心に向かって歩き出した。(続く)

第293話までお読みいただき、ありがとうございます。

地上の人々の混乱はおさまるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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