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第288話。神金竜ヴァレリアの前に現れたのは、アトラス帝国皇帝ディガリアスの放った使い魔だった。その不気味な存在がきしんだ声で話しかけてくるのに、ヴァレリアは答える。

第288話です。

「ク、クククク…まだあれだけのことが出来るとはな。さすが、神金竜ということか」

 それはきしんだ声で言葉をしゃべったが、実に不気味なものだった。

 大型のコウモリに似ていたが、両羽の間の体があるべきところには、大きな赤い目玉しかなかったのだ。

 そしてその目玉の上下には、黒い鳥の羽根と虫の羽とが、何枚もでたらめについている。

「…なんだ…あれは?」

 ダグが薄気味悪そうにつぶやいた。タニアは思わず虎になり、ルシアンとヴァレリアをかばって体勢を低くし、背中の毛を逆立てている。

 『それ』は低く笑った。

「だが、あれだけの力を使えばもう、たいしたことはできまいな。実に、みじめなものよ」

 タニアの体の向こうから、『それ』を睨みつけていたヴァレリアが言った。

「おぬしは…皇帝ディガリアスだな? …否、正確にはディガリアスの中にいた者、ということか」

 その場にいた全員が、驚きに包まれた。

 これが、皇帝?

 しかも中にいたもの、とは?

 ヴァレリアの問いに、『それ』はきしんだ笑い声を上げる。

「ほう、わかるか? これは余の使い魔よ。わざわざ貴様のみじめな様子を見に来てやったのだ。光栄に思え」

 明らかなあざけりと挑発に、ヴァレリアは全く動じなかった。

「わらわに何の用か」

 すると使い魔はゆらゆらと空中で揺らめきながら、愉快そうに言った。

「余はこれから、この国を邪気の中に沈める。そして聖銀竜の体を手に入れるのだ。それを貴様に知らせておいてやろうと思ってな」

「なんだと!」

 使い魔の放った言葉に、ルイとルシアンとダグが顔色を変えて同時に叫んだ。タニアもグルルル…と低い声で唸り、牙を剥き出して結界に向かって数歩進み、ダグに止められた。

 一方、ヴァレリアは落ち着いた声で対応した。

「そんなことをすれば、おぬしもただでは済むまいよ。それに、何故わらわにそんなことを言うのじゃ? 一体、なんのためだというのじゃ」

「貴様が神竜だからだ! 国も民も子どもも捨てて、竜になったからだ! そしてこれほど長い時を生きのびているからだ! 長く生きたことを、竜になったことを後悔させてやるわ!」

 ヴァレリアはそれを聞いて、そっとため息をつき、首を振った。

「わらわはおぬしを知らぬぞ。わらわが眠りについてから数千年…おぬしは今から数えて数百年前から、ウロコを使ってわらわの寝所に来ては散々悪態をつくようになったが…それほどの恨みを受けるようなことを、わらわがしたと申すのか? 数千年以上の時が経っていると思うのだが」

 その言葉に、使い魔はギラリ、とその瞳を輝かせた。

「ほう、余の声が聞こえていたのか。だが、あの結界の中で眠っている限り、貴様は何もできなかった。子孫の体が乗っ取られようが、その力を余に抜き取られようが、何も…な。皇帝の体のおかげで、貴様の寝所にはいくらでも入れたわ。あの結界…神金の守りとは、腑抜けたものよ」

 ヴァレリアはそれを聞いて、ふう…と大きなため息を吐き出した。

 己が知らぬうちにとはいえ、それまでの怒りを買っていたなどと、彼女にとっては初めて聞くことだったのだ。

「何故それほどまで…わらわを憎むのじゃ。おぬしには、おぬしの生き方があったであろうに」

 すると皇帝ディガリアスの使い魔は叫んだ。(続く)

第288話までお読みいただき、ありがとうございます。

ディガリアスの使い魔は何を叫んだのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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