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第283話。聖銀竜をその身に宿した少女マ・リエの、浄化の歌声に虚無のすすが洗い流されてゆく。空を見上げた人々の見た少女の姿は。彼女に対して、民衆が口々に叫ぶ。

第283話です。


 ああ、何ということだろう。

 黒鋼竜の張った結界の外だけでなく、結界そのものにも薄く降り積もっていた黒いすすが、空から輝きながら降ってきた金色の光の粒が触れるや否や、片端から消えてなくなっていく。

 聖銀竜をその身に宿した娘の歌声は、光と共に輝くように広がり、光に乗って帝都全域に響き渡っていった。

 帝都にいた者は皆、光と声のもととなるものを見ようと天を仰ぎ、娘の声を聞きその姿を見た。

 虚無のすすと邪気で真っ黒に染まった空を、十字の形をした光が切り裂いていく。その十字の中心には、両手を横に広げ白いドレスをなびかせた、少女の姿があった。

 人々は彼女を呆然と見つめ、その歌声に聞き入った。

 十字の光は見る間に広がっていって空を覆いつくし、もはやどこにも黒い邪気は見当たらない。

 その光は、絶望と不安に押しつぶされそうになっていた人々の心を救い上げる、優しくも力強い輝きだった。

 空中に浮かぶ、白いドレスの少女。

 背中の中央まで伸びた淡い青銀色の髪を風になびかせ、白い肌にローズクォーツ色の瞳が鮮やかにきらめいている。

 頭には透けるようなヴェールが、はたはたと空中にたなびいていた。

 彼女の背中からは、髪の毛と同じ青銀色をした翼が一対伸びている。その翼は鳥のそれではなく、大きく伸びた骨と骨の間に薄い膜が張られた、竜の翼だった。

「女? いやあれは…竜? 神竜…か?」

 声をも失って見つめていた人々が、ざわめき始める。

「聖銀竜…? 聖銀さま、なのか?」

「…聖銀さま…聖銀さまだ!」

 結界の中の人々も、少し離れたヴァレリアのいる丘や、避難の途中の者たちも皆、空を見上げて彼女に指を指し、口々に叫び始めた。

「聖銀竜様が降臨された!」

「我等のために、復活された!」

 叫ぶ者。

 祈る者。

 すすりなく者。

 笑顔になる者。

 アトラス帝国の宗教は、人間を護った姿のない神を信じるもので、姿をもつ神竜を敬うのは邪教とされてきたが、言い伝えやおとぎ話、吟遊詩人たちの歌によって、多くの人々が神竜の存在と彼らの使命、そのための力のことは知っていた。

 そして最近では、吟遊詩人の歌や旅の劇団などにより、『聖銀竜と白兎の話』が帝都に少しずつ広まり始めていたのだ。

 虚無の瞳が開き、そこからにじみ出る邪気と、それに含まれた黒い虚無のすすが広がり始めたとき、真っ先に逃げ出したのは貴族と、姿のない神を信仰する神官たちのうち、上位の者たちであった。

 パニックに陥った民衆を邪気のすすから護ったのは、黒鋼竜とヴィレドに命じられた兵士たち、そして下位の神官たちだったのだ。

 人々は空を見上げ、聖銀竜の翼をもつ娘に魅入られた。(続く)

第283話までお読みいただき、ありがとうございます。

マ・リエの歌に救われた人々はどうしたでしょう。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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