第280話。逃げ惑う人々を見捨てられずに悩むマ・リエに、彼女の中の聖銀竜ナギが話しかけてくる。人々を救うため彼が提案したこととは…。その言葉にマ・リエは戸惑う。
第280話です。
『マ・リエ…マ・リエ』
「ナギ。私…どうしたら」
『マ・リエ。今ここで彼らを見捨てれば、そなたは一生後悔する…そうだな?』
「ええ…そうよ。その通りよ。でも、この後のことを考えたら…私…」
泣きながら訴えるマ・リエに、ナギは優しく語り掛けた。
『では、彼らを助けて力が足りなくなったとして、あとで多くの命を失うことになった場合…そなたはここで彼らを救わねば良かった、と後悔するか?』
マ・リエは激しく首を横に打ち振った。
「いいえ…いいえ! 誰かを助けて後悔なんて、するわけないわ!」
それを聞いて、ナギは静かな声で言った。
『ならば救おう、彼らを』
「…えっ?」
ほろほろとこぼれ落ちる涙をそのままに、マ・リエはラナクリフの翡翠色の背中の上で固まった。
一瞬、何を聞いたのかわからなかった。
そんな彼女に、ナギはもう一度言う。
『救おう。そなたの決意を聞いた今、我にも考えがある』
「か…彼らを助けられるの? どうやって?」
『大丈夫だ、落ち着けマ・リエ。姉上の力を借りようと思う』
「えっ…?」
ナユの力を?
それはどういうことなのか。
混乱するマ・リエに、ナギは種明かしをする。
『姉上のウロコを数枚、持ってきているだろう? あれに込められた力をいただくのだ』
えっへん、といった感じのナギの声に、マ・リエはぱちくりとローズクォーツ色の瞳を見開いた。
数千年もの間、その中にナユのメッセージを保存し続けていた、ナユのウロコ。
確かに持ってきてはいる。
その中には、ナユの神気と魔力がこめられている。それほど多くはないかもしれないが、消費したナギの力を確かに補えるだろう。
しかし。
「でも…その力をもらったら、ウロコはどうなるの?」
そうだ。
ナユの神気と魔力によって支えられている、メッセージとそれを内包したウロコはどうなってしまうのか。
ナギは静かな声で答えた。
『砕けて、消えることだろう』
「そんな…!」
そんなことになったら、ウロコに内包されたナユの声も姿も、消えてしまう。
二度と、戻ることはないだろう。
ウロコはほかにもあるが、持参したウロコに入っているナユのメモリーは二度と見聞きできなくなるのだ。(続く)
第280話までお読みいただき、ありがとうございます。
ナギの提案に、マ・リエの決断は…。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




