第273話。崩れ落ちた、仲間たちがいるはずの塔へと行かなければと焦るマ・リエ。風竜の長ミンティ・ラナクリフが、竜の姿になって背に乗るように言う。走り寄ってきたルイに、マ・リエは…。
第273話です。
「あそこには私が行きます。今は心配しないで」
「しかし、危険では…」
精悍な眉をしかめるイーソンさんに、私はふっと笑ってみせた。
彼がはっとしたように私を見つめる。
「大丈夫。私は一人じゃないもの。少しでもできることがあるのなら、私は行かなければ。それに、あそこには仲間がいるはずなの。だから私が行くわ」
「…はい。マ・リエ殿、どうかお気をつけて」
「ありがとう」
私は彼にまた笑ってみせて、踵を返した。
あの塔のところへ行かなければ。
私は後ろにいたラナクリフ様を呼んだ。
「ミンティちゃん!」
「はいよ、聖銀ちゃん。わかってるよ」
やってきたラナクリフ様が微笑んで、私の肩に手を置いた。
「あそこに行きたいんだよね。いいよ、私の背中に乗って。すぐに着くよ」
そう言って、彼女は見る間に竜の姿になった。
周りにいた人々がどよめく。
ラナクリフ様はとても恥ずかしそうにしていたけれど、人々の声にかまわず、私が乗りやすいように屈んでくれた。
ほかの竜たちとは異なる、小柄なうえ異形とされる四枚羽根である自分の姿を恥に思って、他人には決して見せないようにしていた竜の姿に、私のために人前でなってくれたのだ。
私から見たら、ラナクリフ様は翡翠でできた宝石の竜みたいなのに。
翠色のシャボン玉みたいな綺麗な羽根が、四枚もあって素晴らしく綺麗なのに。
竜の世界では、四枚の羽根は忌み嫌われていて、ラナクリフ様はずっとコンプレックスに思っていたという。
でも今は、その美しい姿に見とれている時間はない。
私はラナクリフ様の背中によじ登った。
「いい? しっかりつかまっているんだよ」
ラナクリフ様が背中の私を振り返ってそう念を押す。
「はい」
私は背中からずり上がり、ラナクリフ様の首の根元にしっかとしがみついた。
「行くよ!」
四枚の、翡翠を薄く伸ばして貼りつけたように輝く羽根がひるがえる。
「ほう…四枚羽根とはな」
ルシアンに抱えられたヴァレリア様が、小さな感嘆の声を上げた。
彼らは崩れた通路の出口から少し離れた場所に座っていた。ちょうど結界が張り巡らされていた辺りだったが、その結界はすでに壊れてしまっていた。
「マ…マ・リエ、一人で行くのか?」
走り寄ってきたルイに、私はラナクリフ様の背中から声をかけた。
「ルイはここで、ルシアンと一緒にヴァレリア様とタマゴを守って、お願い!」
「マ・リエ…!」
ルイの返答を待たずに、四枚の翡翠の羽根が羽ばたいて、あっという間に私とラナクリフ様は空中に舞い上がった。(続く)
第273話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・リエは塔まで行けるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




