第271話。神金竜ヴァレリアを黒鋼竜ルシアンが支え、一行は崩れ落ちかけている洞窟から通路に出て走る。そのあちこちにはマ・リエが『命令』していた兵士たちもいて…。
第271話です。
「いいえ、通路は狭いから、あなたがユニコーンの姿になったらとても通りづらくて時間がかかってしまうわ。ルシアンは黒鋼竜で力があるから、彼に頼みましょう」
「そうか…わかった。タマゴは任せろ」
「私もタマゴはちゃんと抱えて行くからね。それじゃ、聖銀ちゃんはこの袋を持って」
ルイとラナクリフ様はタマゴが二つずつ入った袋を持ったが、私に渡されたのは残り一つのタマゴが入った袋だった。
私はそれを、大切に胸に抱く。
あたたかい。
絶対に、安全な場所まで連れていくわ。
ルイがユニコーンの姿になれない以上、小柄な私やラナクリフ様がヴァレリア様を抱えて行くのは難しいから、ルシアンだけが頼りだった。
けれどルシアンは、フラフラしているヴァレリア様を難なくその背におぶって、私を振り返って叫んだ。
「聖銀様、これで私は走れます! さあ、参りましょう!」
「ありがとう、ルシアン。助かるわ!」
黒鋼竜に力があるっていうのは、本当だったのね。
いくらヴァレリア様がほっそりした女性だといっても、一人の大人をおぶって走れるなんてすごいわ。
ルシアンがいてくれて本当に良かった。
でも、ヴァレリア様にはまだほころびを閉じる力はなさそうね。
それはそれで、困ったわ…。
でも今ここで、それを考えていても仕方がない。私たちは急いで通路に出た。
通路のあちこちには、私の『命令』によって、私に従うようになっている兵士たちがいた。
彼らは地響きがして揺れる通路に、不安そうにきょろきょろしていたが、私を見るとほっとしたように駆け寄ってきた。
私はそんな彼らに速攻外へ逃げるように指示しながら、パラパラと上から土砂が降ってくる通路を走り抜けた。
ラナクリフ様とルイが、風魔法を使って土埃や破片を私たちの前や上から跳ねのけてくれる。
私たちと一緒に走って逃げる兵士たちは、私たちを護るために囲んで走りたそうにしていたが、通路が狭いので私たちの後ろについてきていた。
「早く…! みんな、いそいで!」
早く、早く。
急がなければ、みんなこの土砂の下に埋もれてしまう。
焦る私に、ラナクリフ様が斜め後ろから語り掛けてきた。
「落ち着いて、聖銀ちゃん。まだ大丈夫だよ。私とルイで、埃を吹き飛ばすから走りやすいでしょ。転ばないように、足元に気をつけて、落ち着いて走ることに集中して」
はい、ラナクリフ様。
私はその言葉に頷き、前へ、前へと焦る気持ちを抑えて、ただ必死に足を動かした。
そして。(続く)
第271話までお読みいただき、ありがとうございます。
一同は無事に外に出ることができるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




