第268話。意識を失っている神金竜ヴァレリアに、何とかして竜の力となる黄金の木の実を食べさせようとするマ・リエ。黒鋼竜ルシアンにあることを提案すると、彼が起こした行動とは…。
第268話です。
私は腰に下げていた袋の中から、黄金の木の実を取り出した。
今回の作戦で何かあったときに、念のためにと、ナユのウロコ何枚かと一緒に持ってきていたのだけれど、役に立つなら良かったわ。
ナユのウロコには魔力と神気が少しこもっていたから、それらが足りなくなったときの予備にと持ってきた。その少しで、助かることもあるのではないかと思ったからだ。
でも…木の実を持ったまま、私は困った。
ルシアンの膝の上に頭を乗せている今のヴァレリア様は人型をしていて、巨大な竜の姿の時よりは食べさせやすそうだ。
けれど、今の彼女には意識がない。
どうやって食べさせればいいのかしら?
困った私は、ナギの言葉をルシアンに伝えてみた。
すると彼も木の実を見つめて言葉を失う。
うーん、どうしたらいいのかしら。
あっ、そうだわ。
ヴァレリア様の意識を戻すために、一つ思いついた私は、その案をルシアンに言ってみた。
「ルシアン、ヴァレリア様にあなたの力…神気と魔力を流して、彼女に与えてみて欲しいのだけど」
「私の、力を…ヴァレリア様に、ですか?」
「ええ、そうよ。神金竜には、聖銀竜では神気も魔力も質が異なるから、私がヴァレリア様に力を分け与えることは難しいわ。でも、もともと黒鋼竜とは、言い方は悪いけど神金竜や聖銀竜の力が足りなくなった時の力のストックとしての存在でもあると聞いているわ。黒鋼竜の力は他の二竜に比べればとても小さいけれど、緊急の時には、黒鋼竜が力を分け与えてくれることが、とても助かるって」
「助かる…」
それは、黒鋼竜のおばば様に聞いたのだけれど。
一頭ずつの力が小さい代わりに、黒鋼竜たちは他の二竜に比べてかなり数が多いのだと。
私の言葉を聞いたルシアンが、呆然と繰り返す。
「助かる…私の、力で…ヴァレリア、様が…」
それを不審に思いながらも、私は続けた。
「意識を戻す程度でいいのよ、あまり多いと…」
あなたの命が危ないから、と続けようとした時だった。
ルシアンはヴァレリア様を抱きかかえるようにして、神気と魔力を凄まじい勢いで流し込み始めたのだ。
「ちょ…ちょっと、待って、ルシアン、ルシアン!」
彼の両肩を掴んで揺さぶってみたけれど、力の流出は止まりそうにない。
数秒もしないうちに、私の中のナギが叫ぶ。
『止めろ! マ・リエ! ルシアンが死ぬぞ!』
私は力づくで、掴んだルシアンの肩を引いてヴァレリア様から引きはがした。たったの数秒で力をほとんどヴァレリア様に明け渡したルシアンは、思うより簡単に引き離すことができた。
「ダメよ、ルシアン! もうやめて!」
悲鳴のような私の声に、両目の下にクマのできたルシアンが、うっすらと目をあける。
「…でも…ヴァレリア…さま、が」
「あなたの力の全てを与えても、ヴァレリア様は立ち上がることさえできないわ。だから、意識を戻すだけでいいって言ったの」
私はナギの力を、私を通してルシアンに流し込みながら、懸命にそう訴えた。
お願い、わかって、ルシアン。(続く)
第268話までお読みいただき、ありがとうございます。
ルシアンの暴走が止まり、ヴァレリアは無事目覚めるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




