第266話。マ・リエの歌によって、崩れ落ちるヴァレリアを包むカプセル。ヴァレリアに駆け寄る黒鋼竜ルシアンだったが、彼女の反応は…?そして怒りに満ちたルシアンの力が爆発する!?
第266話です。
金色のカプセルは、透明な虫の羽根のように虹色に透き通ってゆき、やがてキラキラとした光の粒に変わり、そしてサラサラと崩れ落ちていった。
「ヴァレリア様…!」
カプセルのなくなった場所に横たわるヴァレリア様に、ルシアンが駆け寄る。
そっと抱きかかえて起こしたが、ヴァレリア様は反応しなかった。
「ヴァレリア様…ヴァレリア様! しっかりなさってください!」
私がルイとラナクリフ様に、タマゴの回収を頼んでいるうちに、ルシアンは必死になってヴァレリア様に声をかけていた。
その声がまるで悲鳴のようになった頃、ようやくヴァレリア様はうっすらと目を開けた。
私も思わず彼女を覗き込む。
その瞳は、輝く陽光のような美しい金色をしていた。
けれど、今はぼんやりと陰りを帯びていて、私はルシアンと共にヴァレリア様に声をかけた。
すると彼女は深く数度息を吐き、ゆっくりとルシアンを見上げて言葉を押し出した。
「…リュ…シ、エンヌ…?」
ルシアンはぱあっと顔を輝かせ、ほろほろと涙をこぼしながら幾度も頷いた。
「はい、は…い、ヴァレリア様。お約束…通り、お迎えに…参りました。リュシエンヌ、です」
ヴァレリア様はその答えに微笑み、青白く細い腕を上げてルシアンの濡れた頬をそっと撫でた。
「リュシ…エンヌ、我が愛しき名付け子よ。そうか…今世は、男なのだな…」
力なく微笑んでそれだけ言うと、ヴァレリア様はふっと力を失い、ルシアンの腕の中でぐったりと目を閉じてしまった。
ルシアンの頬に当てられていた指も、頬からするりと抜け落ちて、ぱたりと地に落ちてしまう。
「ヴァレリア様…! くっ、おのれ…!」
「ルシアン、落ち着いて」
「あれが…あれが、ヴァレリア様の御力を吸い取っていたのだな…!」
ルシアンはヴァレリア様を抱き締めると、カプセルが消えて天井から絡み合いながら垂れ下がったチューブを、憎しみのこもった瞳で睨みつけた。
ルシアンの竜の力に、あっという間にチューブが白く凍る。
パキパキ、と音を立てて凍り固まると、端から白いカケラのように崩れ落ち始めた。
チューブをたどって天井が、おそらくはチューブにつながっていたのであろう通路のパイプも、凄まじい勢いで凍りついていく。
恐ろしいほどの魔力の流れが、私には感じ取れた。
私たちのいる部屋は、まるで肉の保管冷凍庫のように全面真っ白になっていった。
まずいわ、これは室温マイナス何十度とかになっているのではないかしら。
私とルシアンとヴァレリア様は、ルシアンの魔力の発動を感じ取ったナギが魔力で覆ってくれたため無事だが、部屋自体はそうではない。
『マ・リエ、ユニコーンたちが危ないぞ。タマゴもだ』
はっとして見ると、タマゴを入れた袋を抱えたルイが凍り始めている。
ルイと同じようにタマゴの袋を抱えたラナクリフ様は、自らとタマゴを魔力で覆っているから無事のようだった。
彼女も竜ではあるけれど、真竜とはクラスが違う神竜の、しかも激情に流されたあまりのルシアンの力に押されて、自らとタマゴを防御するのがようやっとのようだった。
ルイも己が魔力で防御しようとしているようだけれど、竜、それも神竜である黒鋼竜ルシアンの魔法には、到底及ばないようだった。
それを見て、私は悲鳴を上げた。(続く)
第266話までお読みいただき、ありがとうございます。
ルイは無事ですむのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




