第264話。皇帝に都合のいい作戦をたてさせられていたその訳を知って、戦慄するヴィレド。一方その頃、神金竜ヴァレリアの元へたどり着いたマ・リエたちが目にしたものは…。
第264話です。
ヴィレドは水竜の砦で、己の下で指揮を取った司令官のことを思い出した。彼にも隷属紋はあったはず。
そして、他の上位の指揮官や隊長たちにも。
きっと、彼らから情報を得たのだろう。
マ・リエのことも…聖銀竜のことも、その後にたてた作戦の全てを、皇帝に知られていたのだ。
それどころか、その作戦を皇帝の都合のよいように、立てさせられていた。
ヴィレドが反乱を起こそうとすれば、重職に就く者の隷属紋の解除を聖銀竜に頼むことを、わかっていたのだ。
ヴィレドは階段を駆け下りながら、己が愚かさに歯ぎしりをした。隷属紋を破壊されて尚、残されたつながりを利用して、帝国からガイウスを逃がしたと思っていた。
だが皇帝にとって、ガイウスはたいして重要なコマではなかったのか?
とすると…本当に必要なのは、皇帝の弟の息子である、カルロス・ロッドなのだろうか?
それは一体…何故?
二人は同じくらいの年齢であり、皇帝が次の肉体として選ぶにはさほど差がないように思える。
それとも、ガイウスは皇帝の手から逃げられてはいないということなのだろうか。
「いや…ちがう」
ヴィレドはギフトの直感に従って瓦礫をかいくぐりながら、思いついた恐ろしい考えにぞっとした。
恐ろしい。
そしてひどく息苦しい。
それは砂煙のせいだけではない。
恐ろしいが…きっと、これが皇帝の本当の目的なのだ。
それは…。
「聖銀…様…っ! 申し訳、ございません…! どうか、ご無事で…」
皇帝が本当に手に入れたかったもの、それは。
聖銀竜に違いなかった。
人間である皇帝が、神竜たる聖銀竜をどうにかできるはずはない。
けれどきっと、何か手立てがあるのだ。
この世界でたった一頭だけの大人の聖銀竜が、あの命に何の敬意も持たない、命をおもちゃでもあるかのように扱う存在の手に落ちたなら…。
この世界は滅びかねないだろう。
ヴィレドは冷たい手で心臓を掴まれたかのように痛みを感じ、恐れおののいた。
この情報をマ・リエに伝えたくとも、方法がない。
ヴィレドは彼女の無事を、祈るしかなかった。
振り返ると、上にゆっくりと開き始めた『瞳』が、黒い邪気の涙を流していた。
「こ…これは!…こんな…!」
ルシアンの叫びを横に、私は神金の間に駆け込んだ。
そして絶句し、思わず足が止まってしまった。(続く)
第264話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・リエは一体何を見たのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




