第261話。闇の中にいたアトラス帝国皇帝に挑発され、思わず皇帝に斬りかかり、皇帝の右腕を斬り落とすトレント。しかし彼らに向かって皇帝は、おそるべき事実を口にする。
第261話です。
「どうした? 入っては来ぬか? 余を捕らえるために、ここまで来たのであろう?」
唇の端を上げ、不気味に笑う皇帝が、ヴィレドたちに向かって歩いてくる。
何の武器も持たない、自分たちより小柄な年老いた男に、ヴィレドは心底怯えて浅い呼吸を繰り返した。
「余を捕らえてみよ。切ってもよいぞ? …どのみちこの体はもう、たいしてもたないがな…ククク…」
皇帝の体がもたない? それはどういうことなのか。
ヴィレドとトレントは必死に剣を握り締めながら、その剣の先がカタカタと震えるのを抑えることができなかった。
「う、うわあああ…ッ!」
「トレント…!」
ヴィレドの横ですくんでいたトレントが、叫び声と共に剣を振りかぶり、皇帝に向かって駆けていく。ヴィレドは思わず彼の名を呼んだが、その体は彼を追っては動かなかった。
「貴様の…貴様のせいで、オレの妹は…ッ!」
「ぐ…っ!」
肉を断つ鈍い音と共に、皇帝の喉からうめき声が漏れた。
やったか…?
ヴィレドは思わず上半身を乗り出した。
そして、皇帝の右腕が肘の上から切り落とされ、足元の邪気の中に沈み込むのを見た。
しかし。
「うおおおお…!」
「トレント、やめろ!」
何かがおかしい。
恐怖を感じたのか、続けて剣戟を加えようとするトレントを、ヴィレドは止めた。
本当は全身で止めたかったが、言葉でしかできない自分に悔しさを感じながら。
だがトレントは止まらず、皇帝の玉衣の胸元がばっさりと切られた。
「クックックッ…ひひひひひ…」
血のあふれる右腕を押さえながら、皇帝が狂ったように笑う。
胸元の破れた玉衣の間から、鎖のようなものがこぼれ落ちた。金色の石が連なるようなその鎖は、邪気を弾いているように見える。神金竜から奪った力がこめられているのだと、ヴィレドは気づいた。
皇帝はその体に、神金竜から奪った力をこめた石を連ねて作られたチェーンを巻いて、邪気を防いでいたのだ。
「よく…よく聖銀竜を連れてきおった! これでもう、人間の体など必要ない…よく働いたなあ、ヴィレド…余の誘導の通りにな…ひひひひひ…」
「なんだと…?」
自分は操られていたというのか?
全ては、皇帝の意のままだったというのか?
ヴィレドはうろたえた。
「もう隷属紋は壊れているのだぞ…!」
胸元を斬って尚平気な顔をしている皇帝に恐れおののき、一瞬の隙を見せたトレントの首を、皇帝は左手で掴みあげた。(続く)
第261話までお読みいただき、ありがとうございます。
ヴィレドは皇帝に操られていたのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




